子どもが生まれたとき、親はうれしい悩みを抱える。どんな名前を付けるか。あれこれ期待や夢に心を躍らせる。
この人の親はどうだったのか。日米のプロ野球で活躍し、引退を表明した野茂英雄投手のことだ。名前の読み方は「ひでお」だが、「えいゆう」という願いを込めたのは間違いないだろう。だが、まさかこんな形のヒーローになるとは思いもしなかったに違いない。
野茂投手は日本のトップ選手として初めて米大リーグに挑んだ。一年目でいきなり奪三振のタイトルを獲得し、新人王に輝いた。大きく腰をひねる独特のトルネード(竜巻)投法で米国のファンも魅了し、三振を示す「K」のボードがスタンドで揺れた。
華々しい実績を残すと同時に、日本人選手が海を渡る道を切り開いた先駆者としての評価も高い。野茂投手が米国で通用しなかったら、イチローや松井秀喜選手らが後に続いたとは思えない。現在は十四人の日本人が大リーグに在籍する。
少年野球の指導者によると、最近は日本のプロ野球ではなく大リーグを目指す子どもが目立つという。夢は大きく頼もしい。これも野茂効果といえよう。
再びあの勇姿は見られないが、たぐいまれな英雄として日米で語り継がれるだろう。「さらばトルネード、ありがとうトルネード」である。