十年前に経営破たんした旧日本長期信用銀行(現新生銀行)の粉飾決算事件で、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と商法違反(違法配当)の罪に問われた元頭取ら三被告に対し、最高裁第二小法廷が一、二審の有罪判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。三人の無罪が確定する。
長銀は、バブル期に系列ノンバンクなど関連会社への融資を急増させ、多くがバブル崩壊後に不良債権化した。一九九八年十月に金融再生法に基づき破たんと認定され、一時国有化された。その後、外資系投資ファンドによって新生銀行に生まれ変わった。
預金者保護や国による不良債権の買い取りなど長銀処理のために、最終的には五兆円規模の公的資金が費やされるとみられている。国民に巨額の負担を強いる結果になりながら、破たんの刑事責任を誰も負わないことになった。納税者としては釈然としない。
三人は、九八年三月期決算で、旧大蔵省が不良債権の厳格査定のために九七年に示した新しい会計基準を逸脱した自己査定で不良債権を隠し、未処理損失を約三千百億円少なく計上した有価証券報告書を提出し、配当原資がないにもかかわらず約七十一億円を違法配当したとして起訴された。一、二審は検察側主張が認められて有罪となった。
最高裁は、新基準は大枠の指針で具体性、明確性がない。多くの銀行も新基準で査定すると認識しておらず、長銀の会計処理は「当時の公正な会計慣行に反しない」と違法性を否定した。判決は九七年の新会計基準があいまいで分かりにくかったことを重視し、犯罪構成要件の厳格さを貫いたといえよう。
長銀への公的資金投入をめぐっては与野党をはじめ、世論も経営陣の責任追及を求めた。その声に押され、東京地検特捜部が強制捜査に乗り出した。国策捜査だとの批判がつきまとっていた。反省すべきは、長銀問題を破たん時の経営トップの個人的責任に押し付けようとしたことだろう。
バブルに踊り、乱脈融資などで経営危機を招いた歴代経営陣は時効の壁に守られて刑事責任から逃れた。さらに、護送船団方式で銀行の手足を縛って自由な経営を許さなかった旧大蔵省の強権的な金融政策や、金融危機対応の法整備が遅れた政治の責任は棚上げされたままである。
最高裁判決で長銀問題は終わらない。いまだに日本社会には政官業のなれあいが残る。悪弊を絶つ必要があろう。
開幕間近となった北京五輪に向け、星野仙一監督(倉敷市出身)率いる野球の日本代表二十四選手が決まった。正式競技となった一九九二年のバルセロナ五輪以来悲願の金メダルを目指して「星野ジャパン」が、いよいよ臨戦態勢に入った。
メンバーは全員プロで編成された。前回のアテネ五輪に続き主将を務める宮本慎也選手(ヤクルト)をはじめ球界のエース的存在のダルビッシュ有投手(日本ハム)、唯一十代の田中将大投手(楽天)らベテランと若手のバランスがとれた構成といえよう。
しかし、万全なチーム状態での船出ではない。投手陣の柱となるべき上原浩治投手(巨人)は不振にあえいでいる。主軸の新井貴浩選手(阪神)と稲葉篤紀選手(日本ハム)も故障を抱える。それでも星野監督は、欠かせない戦力として最終メンバーに入れた。新井、稲葉両選手をカバーするため投手枠を一人減らして野手に回したが、暑さと過酷な戦いの中で投手陣への負担が懸念される。
不安な状況こそ星野監督の手腕の見せどころといえよう。昨年、台湾で開催されたアジア予選の台湾戦で無死満塁からスクイズを仕掛け流れを変えた見事な采配(さいはい)のように。故障者を抱えることはチームの結束力を強めることにもなる。不調にもかかわらず指名された選手たちは意気に感じ発奮している。そうしたプラス効果が短期決戦では大きな力を引き出す。星野流の人心掌握術か。
北京五輪野球は、八月十三日からの八チーム総当たりによる一次リーグで幕を開ける。日本のプロ野球選手の大リーグ流出が続く中で「日本球界のため、子どもたちに夢を与えるために」という星野監督の金メダル獲得への采配が楽しみだ。
(2008年7月20日掲載)