2008年7月18日(金)
「1」
「そう言えば、オレ体育の通信簿2だったな」何気なく昔を思い出してつぶやくと、
「なにが2だ。ヒヨなんか1だぞ!」威張ったように妻が言い放つ。
何かを思いついたか、こうつぶやくと、いつも妻のこのセリフで話がおわってしまう。
アスペルガー症候群の判断基準に、運動能力は含まれていないが、どうも体育などの運動が苦手な子供が多いようだ。
足元の悪いとーるくんは、運動会ではかけっこはいつも4位。
リレー選手に選ばれる姉たちとは違い、参加賞しか貰ったことが無い。
他の子供にも例があるように、筋力は劣るが、体は柔らかいのが自慢だった。
学習熱が異様に高かった大阪の団地から、これまた異様なほどのどかな北海道に引っ越し、
通信簿の成績がジャンプアップしてからは、お情けで「3」になった。
知能が高いにも関わらず、全く学校の成績とは結びつかなかった妻は、ある日、
「特殊学級のみんなとも交流することになりました。我がクラスの代表として、斉藤さんに行って貰います。」
おとなしく、自己主張しない妻は、ついに知能がボーダーであると疑われ、
1ヶ月だか1学期間だか、特殊学級に通わされたのだ。
結局、疑いは晴れ、普通学級に戻されたのだが、体育の成績は「1」のままだったらしい。
歩くというのは、人間が人間として生活を始めた基本動作である。
これだけは、誰にも教えられずとも、誰しも歩き方は獲得できるはずなのだ。
ところが、とーるくんは足元がおぼつかなかった。
ヒヨちゃんも、歩き方は独特で、終生変わることはなさそうだ。
歩き方がおかしいだけでなく、泳ぎを教えても、上手く足の動きを再現できない。
ばた足すらも、自然なばた足の動きが出来ず、平泳ぎのカエル足に至っては最後まで足首の動きとキックの動作が出来なかった。
これは、体のどこの部分を動かしたらよいか説明しても、例えば、
目をつぶり、右手で右足の太股の裏の中間を指で触ってみて、と言うと、
自分が太股の中間と感じている位置と、現実の位置とが極端に違う。
私はこれを、「知覚地図」と呼んでいるんだけど、
定型発達であれば、自分の鼻、自分のおしり、自分のひざの裏、だいたい自分が思い描く場所と、実際はさほど離れていないのが、
私の妻は、自分が感じている体の部位、位置、と現実の位置がかけ離れているようなのだ。
だから、テレビ体操の説明を聞きながら体勢を作ると、説明とは全然違う格好になってしまう。
これは、脳から伸びている神経組織の位置と、現実の位置の誤差がものすごく大きい感じなんだね。
これが本当なら、どんなに上手いコーチが、どんなに上手い説明をしても、なかなか運動は上達しない。
同じ様な子供は結構居るような気がする。