おとなの精神科臨床をしていると、
「こどものときから適切な対応ができていたら、今の状況は違ってただろうな…」
と思える患者さんに出会うことがよくあります。
その多くは広汎性発達障害に二次障害として精神症状を併発している患者さん。
今でこそブームのように広汎性発達障害やアスペルガー症候群に注目が集まっているけれど、
ブーム到来前にこども時代を通り抜けてきた患者さんたちのなかには
やっぱり適切な支援が得られず、うまく社会に適応できずに育ってきた
広汎性発達障害をもつおとなの患者さんが本当にたくさんいらっしゃいます。
それも、驚くほどたくさん。
理由もわからないまま、どうしても職場に馴染めなかったり仕事が続かなかったりして
そんな苦しい状況から気分が落ち込んだり、人ごみが怖くなったり、強迫的になったり。
そうなってから初めて精神科・神経科の門を叩いてみると、主治医の先生は
うつ病とか不安障害とか強迫性障害とかの診断をつけて、薬物療法や精神療法を始める。…
その診断自体は、決して間違っていないのです。
でも、背景にある発達障害の部分は見過ごされていることが今はとても多いんじゃないのかな。
二次障害の精神症状を主訴に精神科を受診した患者さんから、背景の広汎性発達障害を
見つけ出すことは、広汎性発達障害の特徴を意識して診察したり生育歴を聴取したりすれば
比較的簡単なこと。
でも、見つけるだけじゃ意味がないと思うのです。
どうすればこれからの人生をもう少しうまく、もう少し楽に過ごしていけるか。
そこを支援できるようにならなければいけない、と私は考えています。
二次障害だけを軽減させても、広汎性発達障害を見つけ出して告知してみるだけでも、
患者さんの根本的な部分にはしんどさが残ったままになるはず。
おとなになってからの広汎性発達障害の「育ち」を支援する方法を見つけるか、
こどものうちに発達障害をもつひとたちの育ちを適切に支援できる人材を増やすか。
そう考えると、児童精神科医はますますたくさん必要なんじゃないかな、と思えます。
いずれは、もっともっときちんとこどもを診ることができるようになりたいな。
そして今は、おとなの精神科臨床をしながら、おとなの広汎性発達障害への関わりかたも
いろいろと模索してみたいと考えています。
毎日が貴重な経験です。
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コメント一覧
私は子どもが生まれてから、発達障害と関わる機会を持ちました。
私の子どもは生まれたときから、癇癪が激しく「何かが違う」と育てにくさを
感じながら育児をしてきました。
地域の保健行政に相談しても、「愛情が足りない」「考えすぎ」
と母親の能力不足や強い育児不安として、捉えられてきました。
それまでも、子どものことで悩み苦しみ、母親の人格まで否定される。
精神的に追い詰められ、現実から逃避したくなることが何度もありました。
子どもの発達障害について地域の保健、福祉行政に相談しても、理解がない様子で、
「どこに行けば助言や支援が受けられるのか」と
高度医療センター、児童相談所、発達障害児支援センター、
社会福祉法人、予約を取っては探し回りました。
結局、子どもに合った具体的な助言はなく、最後の児童精神科医のクリニックで
疑いの病名と、子どもに合った具体的な関わりを丁寧に教えてもらい救われました。
ある程度の診断名や対応を具体的に知ると、子どもの関わり方に負担を
感じることが減りました。責任や重圧からも少し解放された気がします。
>こどものうちに発達障害をもつひとたちの育ちを適切に支援できる人材を増やすか。
私もそう思います。医療福祉関係者の支援と親の求める支援が
合致していないなと感じることがあります。
先生のような方が、もっと増えて欲しいと切に願います。
お手数かけしますが、上記の書き込みが不適切だと判断された場合、削除をお願いします。
そして、ご心配をお掛けしてしまうような記事をコメントレスより先にアップしてしまって
申し訳ありません!!
プライバシーポリシーはblogを始めるときに書こうと思っていたのを忘れたままにして
しまっていたので今日慌てて書いただけで、ワンワンさんの記事に個人情報保護に関する
問題があると感じたということではまったくありません。本当にごめんなさい。
さて、2歳のお子さんが発達障害疑いの診断を受けたとのこと。
育てにくさを感じながらもなんとかよいアドバイスを得たいと思われて、さまざまな機関へ
ご相談されるのは本当に大変だったことと思います。
しかも行く先々でアドバイスどころかがっかりするような言葉しかもらえなくて、傷つかれた
こともたくさんあったのですね。
それでもあきらめずに通われて、児童精神科のよい先生に出会うことができて、本当に
よかったですね! ワンワンさんの粘り強さが最後に実を結んで、私も嬉しくなりました。
自閉症をはじめとして、発達障害についての研究成果や正確な知識がまだ少なかった時代は
どうしても母親の愛情がどうだとか躾がどうだとか、いわゆる「母原性」の障害だと専門家たちにも
本気で信じられていたようです。
だからこそ、昔からこどもたちに一生懸命関わろうとしてきた専門家たちほど、結果として
お母さんを責めるようなことばを発してしまうことが多いのではないかな、と私は思っています。
(もちろん、昔からの専門家たちにもぜひ最新の知識を身につけていただきたいところですが。)
いつかゆっくり書きたいと思っていますが、ワンワンさんが児童精神科の先生のところで
体験されたように、診断名やその可能性をお伝えすることで本人やご家族がホッとできたり
希望が持てたりすることがいちばん大事だと思っているので、そんな診療のできる児童精神科医に
なれるよう、これからも修行を重ねていきたいと思います。
ワンワンさんの貴重な体験を聞かせていただいて、本当にありがとうございました。
おかげで、私自身ががんばるエネルギーをいただけました。
ワンワンさんも無理をされず、自信を持ってお子さんと関わってあげてくださいね!
これからもどうぞよろしくお願いします。
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