7月4日、丸善本店・日経セミナーホールで、作家の平野啓一郎さんのトークイベントがありました。最新作『決壊』の出版を記念して開催されました。大勢の平野ファンが集まりました。
プロフィール:
平野啓一郎(ひらのけいいちろう)さん。
1975年、愛知県生まれ。京都大学法学部卒業。98年、大学在学中に文芸誌『新潮』に投稿した『日蝕』が巻頭掲載され、話題を呼ぶ。翌99年、同作により第120回芥川賞を史上最年少で受賞。他の著書に『葬送』『顔のない裸体たち』『ウェブ人間』(梅田望夫と共著)などがある。
7月4日、丸善本店・日経セミナーホール(東京・丸の内)で、作家の平野啓一郎さんのトークイベントがありました。(聞き手・矢野 優新潮編集長)このイベントは、平野さんの最新作『決壊』上下巻(新潮社刊)発行記念で開催されましたが、先日秋葉原で起きた通り魔事件を予言していたかのような内容という前評判もあってか、大勢の平野ファンが集まりました。
平野さんの話(要旨)
「殺人についてはいつか書こうと思っていました。そして、人が人を許すことができるのかと考えました。“許し”とは、それが不可能な状態で初めて存在するもの。許せないという時が初めて許せる時だと思います。」
(平野さんの作品は、“面白い”、“読み始めたら止まらない”と言われていますがとの問いに)面白いってどういうこと?と考えました。小説には2つあると思っていて、1つは、読んでいる間に面白いが後はあまり残らないもの。もう1つは、読んでいる間は面白くないが、後で考えると、ああそういうことだったのかとわかるもの。今回は、読んでいる間に面白いということを考え直そうと思いました。
よく、文章理解ができないのは読書経験のせいだと言われます。確かに、それもあるかもしれませんが、私は、書き方のせいもあると思っています。そこで今回は、面白い・わかりやすい文章を追求してみました。
著者:平野啓一郎
出版社:新潮社
定価:1800円+税
発行日:2008年6月25日
それから、私の文章は難しいと言われます。漢字が多い文章は読む上でストレスになるという説がありますが、私の文章は、漢字はそれ程多くはないのですが、ストレスになっているのかなあとも思いました。
私は、ドストエフスキーとヘミングウェイの影響を受けています。ドストエフスキーの文章は謎が多く人間の内面が良く描かれています。登場人物に説明をさせるために述部を書いています。
ヘミングウェイの文章は、文法構造に囲まれています。例えば、“今日のおかず”と“今日のおかずは”、“決壊”と“決壊は”と書いてあるのでは予想される物が違ってきます。名詞だけでは、それが何を表現しているのか想像しにくいけれども、“は”という格助詞が付くことで、その先に何が続くのかということが想像しやすくなります。本の表紙をめくることは、タイトルに格助詞を付けることだと思います。
“決壊”という言葉は、“崩壊”とも“崩落”とも違います。あるところまで保っていて壊れるということです。私ももがきながら書きました。連載は初めてです。終わり方を決めずに書き始めたので、不安でしたが、毎回毎回を面白くなるように書きました。
会場との質疑応答
Q1:平野さんの視点が独特だと思う。特に、歯についたガムで鑑定をするという描写に驚いた。自分は、そういう目線で見たことがない。作家ならではのことでしょうか?
A1:街を歩いているときも、変なことが頭に浮かんだりする。ガムは、“自分のDNAが含まれている痕跡”として何が良いかと考えた。そういうところに注目してもらえると考えた甲斐がある。
Q2:テロが個人によって行われるようになると、どうしたら良いのかと考える。どういう心構えが必要か。
A2:ベネディクト・アンダーソンが“アナーキズムはメディアによって作られる”と言っている。メディアの発達に伴って、事件がメディアによって報道されるようになり、それを望んで犯罪を犯す人が増えている気がする。女性とうまく関係が持てないことも原因になっていたりする。対話を通じて別のロジックを作っていくことが必要なのではないか。
トークイベント終了後、私も『決壊』を読み始めました。会場からの質問で、“平野さんの視点が独特”と言った人がいましたが、文章表現(特に装飾言葉)も独特だと感じています。しゃべる言葉も表現が豊かで、言葉を良く選んで話していると思いました。
平野さん公式ホームページ
http://www.k-hirano.com/
公式ブログ
http://d.hatena.ne.jp/keiichirohirano/