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社説:教員採用改革 もう先送りにはできない

 大分県教員採用汚職はここだけの例外的事件か。そう考える人はほとんどいないだろう。毎日新聞が47都道府県と17政令市教育委員会にアンケート調査したところ、半分近くは受験生本人に得点を開示せず、大半の自治体が第三者チェックの仕組みを持っていない。

 また、多くの自治体で合否結果を県議ら「有力者」の求めに応じて事前に知らせている実態が明るみに出た。大分県の教育長も昨年、複数の県議らの要請で発表直前に通知したことを認めている。この際、毎日新聞の取材に文部科学省の担当課は「同様の事例は聞いたことがない」と評したが、不可解だ。では、これまで入れ代わり立ち代わり全国の教育委員会に出向してきたキャリア官僚たちは何を見聞きしていたのか。

 教育振興基本計画は「教員は、子どもたちの心身の発達にかかわり、その人格形成に大きな影響を与える存在であり、その資質・能力を絶えず向上させる」ため研修などの充実をうたうが、それ以前の入り口=採用制度の公正確保には言及しない。「地方が自律的に取り組むべきで、国が上から介入すべきことではない」というのが文科省の基本的な考え方だ。しかし、実態を直視し、改善策に知恵を絞り、提起するのは全く別の問題である。

 互いに「先生」と呼び合う内輪世界で、コネと金品を動力源に採用や昇進人事が行われていたのが事件の構図だ。程度や規模の差はあれ、こうした土壌は大分のみならず他の地域でも多く指摘されてきた。

 そして、改ざんなど恣意(しい)的な操作が行われたら十分なチェックができるか、多くの自治体が心もとない体制であることも毎日新聞の調査で明らかだ。大分では10年保管と規定されている採用試験答案用紙などもあっさり廃棄されていた。

 とりあえず文科省は各教委に、チェック体制や公正性を保つ措置、文書の保存期間など9項目の回答を求めた。月内に集約するが、肝心なのはそれを受けて何を提起し、改革へ確かな一歩を踏み出すかだ。

 情けない話だが、教委の現場では、大分の事件が大きく報じられたので今後は有力者も介入しなくなると期待する声がある。また答案など文書保存徹底もある程度効果はあろう。それも小さな一歩には違いない。ただ、第三者のチェック、正答・成績の本人開示と説明、コネや介入を遮断する対応ルール作りなど、これまでも指摘はありながら一部にとどまってきた抜本策を講じる時にきている。

 全国に共通した構造的な問題と多くの人たちが受け止めているから、大分県の事件は関心の高いニュースになったのであり、これをどう改革に転じさせるか注目されている。

 今回ばかりは「先送り」は絶対に禁じ手である。

毎日新聞 2008年7月20日 東京朝刊

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