現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

教員汚職―口利き封ずる仕組みを

 教え子の顔が一人一人浮かぶ。あの子たちにどう話せばいいのか――。そんな思いで眠れぬ夜を過ごしている人はどれぐらいいるだろう。

 大分県の教員採用をめぐる汚職事件で、不正に採用されていたことが確認された場合には採用が取り消されるという。当然の措置だろうが、子どもたちへの影響が心配でもある。

 さて、全国の教員はこの事件をどんな思いで見ているのか。もちろん、憤慨している人が大半だろうが、ひょっとしたら苦い記憶を呼び覚まされている人もいるかもしれない。

 文部科学省は、全国の都道府県の教育委員会に対し教員採用についての実態調査を指示した。今回の事件が大分県だけの特殊な事情にもとづくものだとは思えないということだろう。

 実際、今回のように大胆で露骨な例は珍しいにしても、教員採用をめぐる口利き話はそこかしこで聞く。コネがなければ教員になりにくい、といった話も少なくない。

 さらに新たな問題も出てきた。採用の合否が受験者本人に伝えられる前に、国会議員の秘書や県議らに漏らされていたという。本紙の調査によると、そんな便宜を図っていた都道府県・政令指定都市の教育委員会は、全国で20を超える。

 合否の決まった後のことだ。採用を求めて口利きするのとは違う。だから目くじらをたてなくてもいいのではないかという考え方はいけない。

 議員や地域の有力者らにだけ特別に知らせるのは、どう考えても公正ではない。そうした便宜供与が口利きを許すことにつながり、それが今回のような事件に発展したのではないか。

 では、どうすべきか。

 まず、各教育委員会は実態調査を機に、不正がないかどうか徹底的に検証してほしい。今回の事件でも教育委員会の中枢が不正に手を染めていたのだから、おざなりの調査で実態を突き止められるとはとても思えない。

 何よりも大切なことは、不正が入り込まないような採用制度をつくることだ。試験問題と解答を公表し、試験の成績を受験者に通知する。試験の採点や合否判定には、県人事委員会や第三者機関などを関与させる。それらは最低限、必要なことだ。

 同時に、口利きや特定の人たちへの便宜供与を一掃しなければならない。このほど教委の全国総会で事前通知をやめることで合意したというが、総会にはかるまでもないことだ。例えば鳥取県のように、口利きなどをしてきた場合はその名前や依頼の内容を公表するような制度を設けたらどうか。

 繰り返される教員採用汚職。公立学校不信を増幅させる罪は限りなく重い。今度こそ教員の採用や人事にからむ不正や悪弊を根絶やしにすべきだ。

CO2削減条例―東京の試みを生かそう

 多額の税金を食いつぶした新銀行など、何かと物議をかもすことも多い石原都政だが、今回はひとまず拍手を送りたい。

 2年後から大規模事業所に二酸化炭素(CO2)の排出削減を義務づける条例が定められた。排出削減の義務化は政府に先駆けた制度で、自治体としても全国で初めてである。

 原油換算で年1500キロリットル以上のエネルギーを使う施設が対象で、デパートやテナントビル、ホテル、大学、工場など約1300にのぼる。

 制度の大枠は次のようなものだ。

 対象となる事業所の05〜07年度の平均排出量を20年度までに15〜20%削減させる。自前の努力で目標に達しない場合は、目標以上に減らした他の事業所から買い取って穴埋めできる排出量取引制度を組み入れる。

 それでも最終的に目標に達しなければ、最高で50万円の罰金のほか、都が仲介して不足分を買い取らせる仕組みも考える。

 企業なども徐々に温暖化対策に力を入れ始めている。いきなり罰金付きのノルマを押しつけられることに反発の声が上がるのは当然だろう。

 しかし、CO2の排出削減は待ったなしだ。福田首相の提唱で、秋から国レベルで排出量取引の本格的な試行が始まる。洞爺湖サミットでも、G8が50年までにCO2などの温室効果ガスの半減を世界の長期目標として共有することに合意した。

 CO2排出量の伸びが目立つビルを多く抱える東京が削減の先頭に立つ意味は大きい。ここは各事業所が知恵を絞って目標を達成すべきだ。

 もちろん、課題もある。

 大型テナントビルの場合、削減義務を負うのはビルの所有者だ。ビルの施設や機器をいくら省エネ型に変えても、ビルの入居者が使い放題では目標達成は危うい。都は入居者の協力も義務づけているが、具体的にどう入居者を巻き込んでいくか。

 それぞれの事業所の削減率をどのように設定するかも難しい。これまで削減を進めてきたところと放置してきたところに一律に数値目標を課すのは公平ではない。このため、都は努力してきた事業所に対しては、削減率の基準とする年度を選ばせることなどを検討している。極力、事業所が納得できるような工夫を求めたい。

 この制度が実際に始まれば、手直しの必要も出てくるだろう。政府が同じような制度に踏み切った場合、調整も必要になってくる。一方で、都の試みには、政府にとって参考になる点もたくさんあるはずだ。都の後を追って事業所に削減義務を負わせようという自治体が出てくるかもしれない。

 国内では先駆的な東京の試みを、日本の温暖化対策の起爆剤にしたい。

PR情報