イスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの停戦入りから1カ月近くがたった。ハマスによる昨年6月のガザ地区制圧で、パレスチナ自治区が自治政府統治下のヨルダン川西岸とハマス支配下のガザに分断されて久しい。停戦によってガザからイスラエルに向けたロケット弾攻撃は沈静化し、イスラエル軍の侵攻もなりを潜めたが、和平の行方はなお不明確だ。日本政府が提唱する和平支援策「平和と繁栄の回廊」構想実現に向け、先に来日したイスラエル、パレスチナ双方の高官に現状と課題を聞いた。
イスラエルとハマスの停戦は、イスラエル軍の侵攻とハマスの圧政に苦しんできたガザ地区住民につかの間の安息をもたらした。だが、停戦の基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。イスラエルはガザを西岸から切り離し孤立させようとしてきた。だから対立関係の継続が望ましい。一方、ガザの武装勢力はイスラエルへのロケット弾攻撃を停止すれば、(イスラエル攻撃を支持する)外部からの資金流入も止まってしまう。イスラエル指導部もハマスも本音では停戦を歓迎していない。
イスラエルが停戦に応じた理由は国際世論、特にガザの悲惨な状況の原因がイスラエルにあることを認めたくない欧米世論の圧力だ。ハマスは状況改善を求めるガザ住民の強い不満に動かされた。ガザ住民の85%は国際機関から食糧援助を受け、95%の私企業は活動を停止している。
分断されたガザと西岸を再び結びつけ、ガザ住民の生活を正常化するため、総選挙(評議会選挙)の前倒し実施で民主主義を取り戻すことが最も重要だ。ハマスは選挙を望んでいないが、パレスチナ人と友好国の圧力によってハマスを追いつめ、受け入れさせることはできると思う。
我々はいかなる結果も受け入れる。だが、ハマスは前の選挙(06年1月)で得た結果(過半数獲得)を再び手にすることはできない。ハマスは悲惨な生活と衝突しかもたらさなかった。人々はハマスがどんな組織なのかよく学び、抑圧からの解放を願っている。【聞き手・樋口直樹】
ハマスが支配するガザ地区からはいまだにロケット弾が飛んでくる。現状でアッバス自治政府議長にできることが多くないのは理解するが、治安維持はガザ、西岸双方の自治区で実現されなければならない。それは彼の仕事だ。
西岸はここ数年で最も安定している。イスラエル軍が自由に行動できるからだ。ガザから撤退したように西岸からも軍が撤退すれば危険だ。ハマスを支援しているイランにとってガザは影響力拡大の足場になっている。
イスラエルのオルメルト首相はアッバス議長と可能な限り協力している。しかし、軍は検問所の規制緩和によるテロを懸念している。首相は確かに(汚職疑惑などの)問題に直面しているが、強力な指導者だ。9月の最大与党カディマの党首選で誰が新たな指導者に選ばれようと、党の方針は変わらない。(関係国が中東和平実現に向けた行程を定めた)ロードマップを支持し、シリアとの和平交渉を継続し、ハマスと対決するというものだ。
(イスラエル占領下西岸の)ユダヤ人入植地はロードマップに従い、拡大していない。パレスチナ側もテロを抑制しなければならない。ブッシュ米大統領はイスラエルがすべての西岸入植地から撤収する必要はないと発言している。和平の実現にとって入植地は問題ではない。パレスチナ人の生活が向上すればテロは起きなくなる。その意味でも、日本の対パレスチナ経済支援は高く評価できる。【聞き手・和田浩明】
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■人物略歴
ヨルダン大卒後、プラハ大で経済学博士号取得。経済・財政分野の要職を経て、07年6月現職。労働相を兼務。(梅田麻衣子撮影)
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■人物略歴
ハイファ大卒。公安分野での経験が長く、96年から国会議員。04年11月~06年5月に警察相。06年5月現職。(内藤絵美撮影)
毎日新聞 2008年7月15日 東京朝刊