■川西 紫電(改) 21型(N1-K2J)
Kawanishi siden(-kai) type21(N1-K2J)/ George

いわゆるひとつの紫電改。
大戦末期に登場した海軍最強戦闘機、またはガンキャノンのパイロットとして有名な機体ですな。
ただしこれ、結局なんて名前なのかわからない、というか現場での呼び方、
書類上での呼び方、その他もろもろをあわせると、かなりの数がある機体だったりします。

「あ、お父さん、お猿さんだー」
「馬鹿だな、太郎。あれはニホンザルだ。ちゃんと正確な名前で呼べ」
「馬鹿はあなたでしょう、あれは正式にはマカカ フスカータだわ」
「あれはサロと呼んでおります。この土地にはいませんが」
「…あんた誰?」
「うわーん、みんなのバカー!太郎は猿になってやるー」
てな感じで、そもそも「正確な名前」の定義からして難しいので、
この問題には深入りしません(笑)。

まあ、この機体、少なくとも紫電改というのは正式な名称ではないようです。
主な呼称を簡単に羅列すると、

●1号局地戦闘機 改
●試製 紫電 改
●紫電 21型(甲)
●J改
●紫電改

などなどで、名前なんて正直どうでもいいですが、まあそんな話もあるよ、ということで。
おそらく紫電21型が正統派な名前だと思われるのですが、
この記事では一般によく知られた紫電改で通します。


■2005年7月 アメリカ スミソニアン航空宇宙博物館 ウドバー ハジー別館にて撮影



紫電改、大型の太った機体、という印象が強いですが、実際には、さほど大きくもなく、
同じ誉エンジンを積んだ陸軍の疾風と比べても、幅はほぼ同じで、全長はむしろ少し短いのです。
P47あたりと比べれば、確実に一回り小さいサイズですね。
「胴体後部に向けて、ちっとも細くなっていかないズン胴ボディ」がなんとなく大きい機体、
という印象につながてるんでしょう。センスのないデザインです(笑)。
こんだけ胴体が太い設計ながら実戦配備後にも何回か空中分解を起してますんで、
まあ、川西、向いてなかったんでしょうね、戦闘機設計。

この機体は「剣部隊」として知られた343空に所属していた5341号機。
1945年10月、長崎県の大村基地から横須賀に空輸され、そこからアメリカに運ばれた4機の内の1機です。
ちなみに現在、アメリカには3機の紫電改が現存するのですが、
「世界の傑作機 強風、紫電、紫電改」の記事に出てるその4機の製造ナンバーと、
現在アメリカにある機体、それぞれの製造ナンバーは、この機体以外、まったく一致しません(笑)。

なぜか?
もちろん、私はめんどくさいので調べてません(笑)。
ちなみにこの号の執筆者は野原茂さんだ。ああ…

ついでながら、このときの空輸で
「警護についたグラマンのF6Fが全く追いつけなかったんだよーん、ほんとだよーん」
という談話を見ますが、まあ、この手の話は終戦後の機体空輸ではよく出てきます。
たしか二式大艇だったかの空輸の担当者の手記でも似たような話をみた記憶が。

まあ、そらそうでしょうな、と思います(笑)。
警護ってのは怪しい動きをしたら即撃墜するために付いて来るんですから、
常に相手の後ろ側にいなければなりません。
レースやってるわけじゃないんだから、
前に出るわけがないのはもちろん、並んで飛ぶはずもないんですよ。
性能差を考えれば、いつでも撃墜できるんですから、米軍機としては
前方にさえいてくれれば文句はないわけで。
ほんとに振り切られる、とアメリカのパイロットが危惧したなら、
その段階で撃墜されてるか、少なくとも警告射撃は受けるでしょう。
放っておかれたなら、しょせん米軍機のアンダーコントロールなわけです。
そもそも連合軍機としては鈍足の代表格であるF6Fに勝ったところでなあ、という話も。



紫電改は、川西の水上戦闘機「強風」が陸上戦闘機「紫電」になり、
紫電があまりにひどかったので、その全面改良となった機体です。よって紫電の「改」。
が、事実上再設計に近く、紫電とは別の機体と考えた方がいいと思います。
最初の強風とくらべると、「なんとなく似てる?」
といった程度のつながりでしかありません。
余談ですが強風、紫電、紫電改三兄弟で、約1000機ともっとも生産された紫電は現存機ゼロで、
100機造られなかったと言われる強風が3機、
400機前後の紫電改が4機(1機はほぼスクラップだが)現存してるのは、
なんだかちょっと不思議な感じがしますね。

車輪の外側の主翼下面にいくつもの穴が開いてますが、縦方向の穴は奥の二つが空薬莢排出用、
手前の少し小さい縦方向穴二つは、爆弾懸架用器具の取り付け部らしいです。
横方向に入ってる線はその爆弾を抑える(飛行中の揺れ防止?)ための器具取り付け部。

ちなみに後ろに見えてる双発機は月光です。



エンジン周り。
2000馬力級の誉搭載ですから4枚プロペラとなってます。
この誉エンジンはスクラップみたいな状態からレストアされたものですが、きれいに仕上がってました。
エンジンカウル正面、上の穴はエンジンの気化器空気取り入れ口、キャブレターに空気を取り込む穴で、
下のはオイルクーラーの冷却用空気取り入れ口。
よくわからんのが、機首の根元の下、主脚収容部の間にある、カバーのついた空気取り入れ口。
位置的にはここにオイルクーラー(潤滑油冷却器)があるんですが、
カウル下の穴と、こことの二箇所から空気を導いてたのかしらん。
ちょっとよくわからん部分だったりします。

NEXT