「世界を変える人、日本を変える人」 第9回
日本初!「社会起業家支援サミット」開催します!
座間聖季さん&鶴田浩之さん(社会起業家支援委員会)
(前編)
「社会起業」を
今年の流行語大賞にしたい!
地域の問題を解決するコミュニティビジネス、経済格差を是正するフェアトレード、持続可能な環境を守るエコ活動…。このように社会問題を事業によって解決しようという新しい市民運動である「社会事業」(ソーシャルビジネス)は、日本でも約20年前から試みられてきた。
だが、経済産業省が今春発表した報告書によると、約84%の日本人がまだ社会事業を具体的に想起できないでいる。これでは、社会起業家にとって資金調達をするにも、活動の信頼性をアピールするにも困難がつきまとう。
そこで、より多くの市民に社会起業家たちの活動を広く知らしめ、彼らを市民が支援できる仕組みを作ろうと動き出した学生たちがいる。それが、慶応大学に通う座間聖季さんがプロジェクト・リーダーを務める「社会起業家支援委員会」だ。
――座間さんが、社会起業に興味を持ったきっかけは?
受験勉強を始めた高校3年の夏頃に、同級生たちの「格差」に気付いたんです。
月に数万円もお小遣いをもらっているのに「受験めんどくさいなぁ」なんて言ってる子がいる一方、セブンイレブンでバイトしながら家庭教師を雇って勉強してる子もいる。校則でバイトが禁じられていても、バイトしないと受験に備えられない子もいる。
だから、「東大に行ってこの国を変えてやる!」なんて思うほど権力志向が強かった(笑)。2学期に東大で誰でも受講できる自主ゼミをやっていることをネットで知って、参加したんです。それがフリーライターの今一生さんが講師をやっているゼミで、毎週、社会起業家をゲストに招いてたんです。
島根県の老舗旅館を拠点に地域再生を行う「吉田屋」、アフィリエイトを応用していつものネット売買でNGO/NPO支援のできる仕組みを作った「ユナイテッドピープル」、在日外国人に賃貸入居を支援する「The You」、授乳服の製造・販売を通じてママさんに自分らしい人生を取り戻させる支援を行う「モーハウス」…。
社会起業をやっている人たちは権力に頼らず、草の根的にボトムアップの発想で社会の片隅から少しずつ、でも確実に変えていく仕事をしてました。
そこに感銘を受けて、「こういう面白い人がいるってことを広く知らしめれば、面白い人がもっと増えるかも…」と感じてわくわくしたんです。今の時代、何かに希望を見出せるとしたら「社会起業家」しかいない、と。
――そこで進路を東大から慶大に変えたんですね。実際、SFCは若い社会起業家を輩出していますね。
でも、私の印象では、社会起業を学問の対象にする人は多くても、実際に起業や市民活動に取り組む人はまだまだ少ない気がします。社会起業について話そうと思っても、「社会起業って何?」と聞かれて、なかなか本題に入れないんです(笑)。
社会起業で有名な大学でも、それぐらい知られてない。「だったら社会起業を広報の面で支援することはできないかな」と思っていた矢先に、今さんとの話し合いの中で「イベントをやってみたらどうだ?」という案が出て、mixiで「社会起業支援サミット」のコミュ(BBS)を作り、イベントを運営するスタッフを学内外に公募して、さまざまな経験や知恵を持つ社会人の方も巻き込む形で動き始めたんです。
それが7月30日に早大の大隈講堂で行う「社会起業支援サミット」です。全国から社会起業家10団体が手弁当で参加し、いま欲しい支援を300人の市民に訴えます。社会起業家の話をただ聞くだけの100人以下で集まる勉強会はいっぱいありますが、市民の側からこれほど大規模に社会起業家を支援する動きは前代未聞ですよね。
しかも、マスコミ関係者にもどんどん声をかけて参加してもらい、社会起業を大々的に広報してもらえるよう新聞社やテレビ局などに協力を取り付けているのが、18歳の小娘です(笑)。面白いかなって。
おじさんたちが20年やっても無名のままの「社会起業」をこのイベントで全国民に知らしめて、今年の流行語大賞にしちゃいたいです。「社会起業? そんなの常識」っていう会話が街角から聞こえてくるような時代にしたいんです。
――このイベントでは、公式サイトから参加予約メールを送れば、参加者の人脈・実務経験・語学力などのデータが社会起業家に届けられるため、各団体の活動を具体的に支援できるようになりますね。
そうですね。このイベントは参加するだけで世の中を良くするお手伝いができるんですよ。当日のイベント終了後には、社会起業家1団体につき10人程度の参加希望者を交えて、これから社会起業家と一緒に活動するために自分のできることを知ることのできるカフェ・ミーティングもセッティングしています。これは人材マッチングです。
私たちは、社会起業シーンを受け身で「学ぶ」だけの傍観者から主体的に「支援する」当事者へ進ませるネクスト・フェーズの仕組みを見せたいんです。
しかし、問題も浮上しています。お金のない学生スタッフにとっては、他県から移動する往復交通費や打ち合わせの飲食費などがかさむと、ばかにならないんです。
1人あたり1か月で2万円は飛んでしまい、バイトとお小遣いではまかない切れず、意欲は旺盛なのになかなか活動できないという人材もいて、すごくもったいない。そこで、個人・法人を問わず、寄付や公式サイトでの広告スポンサーも募集しています。
こういう学生たちの熱い意欲に応える形で社長さんやCSR推進部の方から「10万円くらいなら出しますよ」という支援メールが届いたら、それが私たちの生きているこの時代の一つの希望かもしれません。
(後編につづく)
※関連リンク
●「社会起業支援サミット2008」公式サイト
http://www.cccjp.org/
●「社会起業支援サミット2008」を取材した読売新聞の取材記事
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20080707-OYT8T00282.htm
●mixiコミュニティ「社会起業支援サミット2008」
http://mixi.jp/view_community.pl?id=3384475
●今一生氏の公式サイト
http://www.createmedia.co.jp/
●吉田屋
http://www.lets.gr.jp/yoshidaya/
●ユナイテッドピープル
http://www.unitedpeople.jp/
●The You
http://www.the-you.com/
●モーハウス
http://www.mo-house.net/
(後編)
「君はお金ばっかり稼いで」と
高校の先生に言われ……
社会起業家に10代の若者さえ注目する時代だ。
18歳の大学生が結成した「社会起業家支援委員会」には、首都圏在住の大学生や社会人などのスタッフが続々と結集している。中でも注目株の人材は、東京から遠く離れた長崎県に住んでいる最年少のスタッフ、現役高校生の鶴田浩之さんだ。
――鶴田さんは、どんな経緯で「社会起業」に興味を持つようになったんですか?
中1の頃、人気マンガのカードゲームが大流行していました。僕も単純に好きだったんで、個人的な趣味でネット上に掲示板を作ってそのカードに関する情報を集めていったんですね。そのうち、プレミアのカードをユーザどうしで安く買っては高く売る「せどり」でお小遣い稼ぎを始めたら、月に数万円くらいになったんです。
その後、掲示板のユーザがどんどん増えていったので、高校に進学する頃には本格的な総合ファンサイトを制作してみたんです。
そしたら、ピーク時で1日のPVがトップページだけでも5万以上にもなるような人気サイトに成長していったので、アフィリエイト(成功報酬型ネット広告)をつけたり、カード業者から広告スポンサーの申し入れがあったりして、自分でもCGM(※ユーザがコンテンツを生成していく参加型メディア)の手法を独学で勉強するようになったら、高校2年生になる昨年には年商で300万円ほど稼ぐようになっていたんです。
なので、確定申告もして、今年1月からは個人事業者として自覚的にネットビジネスに取り組み始めたところです。
でも、そんなことをしていたら、進路指導の担任の先生から、「君はお金ばっかり稼いで、個人の利益にはなっているだろうけど、社会の利益になっているのか?」と言われてしまって(笑)。
確かにそれほどお金を持っている高校生なんて周りにいませんし、当時すでに生徒会長になってて、学校内の空き缶拾いとか新聞などの古紙回収などのボランティアを呼び掛ける側にいたので、「みんなのため」になるような仕事じゃないと、みんなが動かないってことも痛感していたんですね。
そんな頃に、フリーライターの今一生さんから「10代のネットビジネス」についてメールで取材を打診されたので、今さんのブログをチェックしていたら、「社会起業」という言葉に出くわしたんです。社会起業家=ビジネスを通じて社会問題を解決する人たち。「自分が目指すのはこれだ!」と直感しました。
――「社会起業家支援委員会」とは、どのようにつながったんですか?
「社会起業」をキーワードにしてググッていく(※ネット検索する)うちに、本当にさまざまな社会起業家が日本でもすでに活躍されているのがわかってきて、今年6月に今さんが日本全国の若い社会起業家たち21団体の活動を紹介した『社会起業家に学べ!』という本を読んだんです。
そこで今さんにメールを送り、東京に行って初めて会ったんですね。そしたら、「社会起業を支援するイベントを運営するSFC1年生がいるから紹介する」と「社会起業家支援委員会」のプロジェクト・リーダーである座間さんを紹介されて、イベントの公式サイトを制作することになったんです。
――その頃には、「慶応大学のSFCに入りたい」と思っていたとか?
慶応大学がウェブサイトを制作する言語の仕様を策定していることは前から知っていて、興味を持ってはいたんですが、僕の通う商業高校からはとてもそんな優秀な大学に行けません(笑)。
でも、社会起業家を知るにつれ、社会起業を学べる大学のAO入試に挑戦してみたいと思ったんです。先進的な環境で自分の技術を高めて見聞も広め、世界に通用する人材になりたいので、がんばって合格しますよ。
スタッフからは「来年のサミットはお前が仕切れ!」って言われてます。だから、僕と同世代の高校生も、経営者の方も、ぜひ応援してください。
鶴田さんは、自身のブログで「社会起業支援サミット」についてこう書いている。
「これから事業を起こしてビジネスを始める人が、みんな社会的企業になってくれれば、たとえすべてがそうじゃなくても、少しでも社会的な貢献を頭に入れて、関心をもって起業をしてくれれば、世の中の負の社会問題の解決に希望が見えてくると思う。だから、この支援を通して、自分は若い世代を中心に意義を訴えかけたいし、口コミでも何でもいいから、こういう概念があることを知ってもらいたい」(『もっちブログ』より)
座間さん、鶴田さんの10代コンビの呼びかけで、活動わずか1ヶ月間にサミットの運営スタッフは20人以上に増えた。
7月30日に早稲田大学の大隈講堂で行われる「社会起業支援サミット2008」では、社会起業家にマスコミに取材されるための「0円広報術」の無料レクチャーを提供し、一般市民には直接「社会起業」を知らしめ、報道関係者を集めては広報支援をとりつける。
従来型の企業に勤める新卒者の3人に1人が20代のうちに辞めてしまう。そんな時代に、より若い世代では自分自身がわくわくしながら働ける場所を「社会起業」の事業の中に探し始めている。
アメリカでは既に有能な学生ほど社会起業を目指している。日本でも若くて優秀な人材が自社と株主の利益を最優先する企業に満足できずに社会起業へ流出してしまうという傾向が始まっている。
学生の機動力と、社会人の知恵や経験が結びつくとき、「社会起業」は市民の間にますます認知され、既存の企業は既得権益を守るだけのビジネスモデルの変更を強く迫られていくだろう。
経営者は若い社員たちを連れて「社会起業支援サミット」に足を運んでみてはどうだろうか?
※関連リンク
●「社会起業支援サミット2008」公式サイト
http://www.cccjp.org/
●鶴田さんのブログ「もっちブログ」
http://www.mocchiblog.com/
●『社会起業家に学べ!』(アスキー新書)