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更新:7月15日 09:27ビジネス:最新ニュース

テレビアニメのDVDはなぜ高い? コンテンツのビジネスモデルを探る(1)

 ブロードバンドや薄型テレビ、第3世代携帯電話などの新しいハードウエアがここ何年かで登場し普及してきた。これからはそうしたハードの上で使える「ソフト=コンテンツ」の提供が新しい競争軸であり、成長や変化が期待できる分野である。アニメ、テレビ放送、音楽、携帯向けコンテンツの4つの業界について、そのビジネスモデルを示しながら今後の動向を探っていこう。1回目はアニメ編。

※文中の意見に係る部分は筆者の私見であり、所属する監査法人トーマツの意見を代表するものではない

 テレビではかなりの数のアニメ番組が放送されている。関東地区の2006年のテレビアニメの総放送量は9万5729分(3170本)という(「デジタルコンテンツ白書2007」より)し、衛星放送の番組にはアニメ専門チャンネルもあるくらいで、世の中にアニメがあふれかえっている。上場しているアニメ制作会社も多く、映画業界においてもアニメは欠かせない存在である。

 

上場している主なアニメ制作会社
 決算期売上高(100万円)前期比増減率営業利益(100万円)前期比増減率純利益(100万円)前期比増減率
東映アニメーション2008年3月期211495%2726-18%1686-54%
バンダイナムコホールディングス2008年3月期4604730%33411-21%3267935%
IGポート2007年5月期55472%208-49%165-29%
GDH2008年3月期6854-21%-3337--3753-
トムスエンタテインメント2008年3月期14970-4%880-45%529-62%
東北新社2008年3月期757809%596027%259046%
ウィーヴ2007年12月期4889-40%-357--135-
マーベラスエンターテイメント2008年3月期12388-1%353-791-
創通2007年8月期129221%1531-6%100513%

※各社公表資料を基に「IT PLUS」編集部で作成

 ではアニメ制作会社はどのように利益を上げているのだろうか。アニメ制作会社の儲けの構造を知るためには、ビジネスモデルを理解する必要がある。そのアニメ制作会社のビジネスモデルには大きく分けて次の2種類のパターンがある。

・映画用アニメ制作会社
・テレビ用アニメ制作会社

■映画用アニメ制作会社

 映画用のアニメを制作している会社の典型例はスタジオジブリである。劇場公開用アニメはテレビ番組用に比べて制作費が多くかかることと映画配給会社の協力なくしては劇場で上映することが難しいという特徴があると言える。

 したがって、必然的に制作費の分担によるリスク分散と映画館での上映や映画のプロモーション強化のために、映画配給会社、テレビ局、広告代理店などと組んで制作委員会を組織したうえで共同制作するケースが多い。

 例えば、7月19日から公開される「崖の上のポニョ」のクレジットを見ると、スタジオジブリ、日本テレビ、電通、博報堂DYMP、ディズニー、三菱商事、東宝の提携作品と記されている。これはこの7社が制作委員会のメンバーとして崖の上のポニョの制作、宣伝、配給、パッケージ販売、テレビ放映までを協力して手がけることを意味していると思われる。

 制作費の回収手段は劇場での興行収入、DVD販売収入、テレビ放映収入と映画ビジネスの典型的なパターン(マルチウィンドウ)による。例えば、劇場興行収入の場合には、以下のような経路を経て制作委員会のメンバーに還元されることになる。

※P&A費は作品の広告宣伝費のこと

 アニメの場合には付随的にキャラクターの商品化などマーチャンダイジングビジネスでの資金回収も重要である。06年の劇場封切りアニメは65本でうち邦画50本(「デジタルコンテンツ白書2007」より)とテレビアニメに比べると圧倒的に少ないことからわかるように劇場公開用アニメを制作できる会社は限られている。それなりの大手でないといくらリスクを分散しているとはいえ、大きな投資ができない。

■テレビ用アニメ制作会社

 大部分のアニメ制作会社はテレビ放映用のアニメの制作を行っているのが現状である。テレビ局主導で制作する場合には、通常のテレビ番組と同じようにテレビ局から制作を委託されてアニメ番組の制作のみを請け負うケースが多い。自己資金の乏しいアニメ制作会社はこのモデルで制作資金の早期回収を図っている。

 しかし、最近ではアニメ番組が増えすぎたことにより、テレビ局側が放映するアニメの絞ぼり込みを始めた。絞ぼり込みされると、実績はないがこれから売り込みたいというアニメはなかなか放映されにくくなる。

 そこで考えられたビジネスモデルが、テレビ放映を劇場公開と同じプロモーション手段ととらえて資金回収を図る方法である。以下の図を見ていただきたい。

 まず、アニメ制作会社は、テレビ放映枠をテレビ局から買い取るため、自ら放映枠のスポンサー(広告主)になる。スポンサー費用の一部は、テレビ局からの番組制作費として拠出されるケースもあるが、アニメコンテンツのマルチユースを想定し、自ら著作権を保有するため、自己資金で制作を行うことが多い。つまり自ら番組制作費と広告宣伝費を負担してアニメ番組を制作し、テレビで放映してもらうのである。

 では、こうした投資はどうやって回収されるのであろうか?テレビのプロモーション力を借りて宣伝したアニメを放映後にDVDで販売し、さらに玩具・キャラクター商品を販売して得た資金で回収を目指すことになる。

 例えば、人気のとあるロボットアニメシリーズではテレビで放映した4話が収録されているDVDが6000円(税別)で販売されている。一方、劇場公開の別の人気アニメは4000円弱だ。この値段の違いはどこからくるのであろうか。

 一般的に劇場公開用は映画興行で制作費・宣伝費の多くを回収するのに対し、テレビ番組用はDVD販売で制作費・広告費の多くを回収する必要がある。そのため、テレビ番組用のDVDの販売価格を高く設定せざるをえないのである。

 このようにリスクをとって先行投資をして後にマルチユースで回収するというのは、劇場公開用映画と同じ思考であるが、映画の場合は1次利用(興行収入)でも稼げるのに対し、テレビの場合は1次利用(テレビ放映)ではほとんど稼げない点が大きく異なる。ただ、映画に比べて制作費を抑えるのでテレビのほうが相対的にリスクを抑えることができている。ミドルリスク・ミドルリターン型といえる。

 今後は、大容量インターネット配信や携帯での高速動画配信など出口の広がりが期待できることから、資金回収手段が多様化すると考えられる。その分、制作費予算を増やす動きにつながり、ミドルリスク・ハイリターン型を目指す方向に行くかもしれない。

[2008年7月15日]

-筆者紹介-

伊藤 雅之(いとう まさゆき)

監査法人トーマツ パートナー 公認会計士

略歴

 1978年監査法人トーマツ入社。TMT(Technology-Media-Telecommunication)インダストリーに属する数多くの企業の法定監査やM&Aサポート業務に従事している。文化庁や総務省のコンテンツ流通に関する研究会にも委員として参加。主な著書に「コンテンツビジネスマネジメントVer2.0」(日本経済新聞出版社)、「開示情報からわかるコンテンツ企業のビジネスモデル分析」(中央経済社)がある

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