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NIKKEI NET

社説1 長銀破綻の責任はどこにあったのか(7/19)

 1998年に経営破綻した日本長期信用銀行(現新生銀行)の元頭取ら旧経営陣3人が、粉飾決算と違法配当の罪に問われた事件で、最高裁は逆転無罪の判決を言い渡した。

 破綻のあと一時国有化されるのに際し、旧経営陣の法的責任を刑事・民事両面で追及する必要があるとして、後を継いだ経営陣が刑事告訴と損害賠償を求める民事提訴をした。その刑事裁判である。

 多くの破綻金融機関では組織の私物化や無理な追い貸しなど経営者の背任行為が追及されたが、長銀の場合は違う。不良債権の査定・処理が「公正なる会計慣行に従う」との商法の規定に合っていたか否かが問題だった。刑事・民事どちらの裁判も争点は同じこの一点に絞られた。

 旧経営陣を有罪にした一、二審の判断はこうだった。「不良債権の早期処理を促す、いわゆる金融三法の施行を受けた、大蔵省(当時)の新しい決算経理基準・資産査定通達だけが『公正なる会計慣行』だった。これに従わずに古い基準で査定し不良債権処理を先送りした決算は、貸し倒れ損失を隠した粉飾になる」

 最高裁判決はこれを覆した。理由は(1)新しい基準・通達は『大枠の指針』『ガイドライン的なもの』であり具体性、明確性に欠ける部分があった(2)税制面の手当てをしていなかったので、新基準・通達に従って有税で償却、引き当てをすると利益が減少し経営危機に陥る恐れがあった(3)現実に大手18行のうち14行は長銀と同様の会計、決算をしていた――などだ。

 つまり、新基準・通達だけが「公正なる会計慣行」だったとするには、当時の大蔵省の金融行政は穴だらけだった。そういう指摘である。

 民事は一、二審とも、旧経営陣に賠償責任を認めない“無罪判決”で、最高裁は刑事裁判と並行して、二審判決を確定する決定をした。

 確定した東京高裁判決は「付言」で次のような見解を表明している。「長銀の破綻は、従前の金融政策・行政の在り方にも深く関係する性質の問題である。旧経営陣を個人的に断罪するのは、法の解釈・適用の在り方の基本部分に疑問が残る」

 旧大蔵省は「ハシの上げ下ろしまで」と、やゆされるほど銀行経営に細かい規制を加えてきた。その中でなぜ不良債権が積み上げられ、ついには経営破綻が続出したのか。政治家、日本銀行、各金融機関を含めそれぞれの失敗と責任はどこにあったのか。そこを公に検証する、大恐慌後に米議会に置かれた調査機関「ペコラ委員会」のような場が要る。

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