地上デジタル放送の電波を発信する「東京スカイツリー」の建設が東京都墨田区で始まった。地上約610メートル。東京タワーの2倍近い高さで2012年春の開業を目指す。建設を進める東武鉄道や地元は年間500万人以上の来客を見込み、東京の新しい名所にと意気込むが、タワー本来の目的を果たすには、デジタル放送受信の環境整備が欠かせない。
昭和33年にできた東京タワーは、パリのエッフェル塔より9メートル高い333メートルで、3並びの数字にこだわった。今回も計画時には世界一を目指したが、トップの座はドバイの超高層ビルなどに譲る。東京タワーの2倍近い高さにしたのは、都心の超高層ビルの増加に伴う電波障害を最小限にする狙いだ。
地上デジタル放送の電波はアナログ放送より周波数が高く、直進性が強いことも、電波塔を高くする理由だった。一方、デジタル放送は混信に強いため、電波障害対策用の受信設備が必要だった家庭でも、9割近くが直接受信できるようになる。
東京スカイツリーはNHKや在京民放キー局5社が利用し、従来のアナログ放送は11年7月24日で打ち切られる。それまでに視聴者側は、テレビの買い替えやアンテナの配置換えなど、デジタル放送受信の環境を整えなければならない。
デジタル放送に対応したテレビやチューナーの累計出荷台数は5月末で約3500万台。世帯普及率は約44%にとどまっている。今後3年間でほぼ100%の普及率を実現するため、総務省では生活保護世帯などに簡易チューナーを無償で給付する支援策なども検討している。
首都圏では電波塔が港区から墨田区に移るため、アンテナの向きを変えたり、ビルの共同受信設備を調整したりする必要がある。集合住宅での対応も今から詰めておく必要があろう。調整にかこつけた悪質商法や膨大な廃家電が登場する恐れがあり、自治体なども注意が必要だ。
総務省は各地に相談センターを設けて対応するようだが、多くの視聴者が十分に認識しないままでは混乱が起きる。デジタル放送時代の象徴となる東京スカイツリーの着工は、デジタル方式への移行期限が近づき準備を急げという意味でもある。