ゴッホは四百点以上の浮世絵を集め、模写も試みた。浮世絵を通して日本を愛し、日本をユートピア視していたという。
明るい色調、平面的な構成がよほど新鮮だったのだろう。江戸時代の大衆文化とともに生まれた浮世絵は十九世紀後半から海外にも伝わり、とりわけヨーロッパの印象派の画家たちに大きな影響を与えた。
庶民の美意識が開花した、そんな肉筆画や錦絵の魅力を紹介する「浮世絵の美展」がきょう、岡山市の県立美術館で開幕する。全国屈指の浮世絵コレクションを誇る千葉市美術館の所蔵作品からえり抜かれた約二百点。浮世絵の祖といわれる菱川師宣をはじめ、著名絵師の名品がそろった。
見逃せないのは、優美であでやかな喜多川歌麿の肉筆画と、一瞬の表情を活写した東洲斎写楽の迫真の役者絵か。美人画では清純な鈴木春信、すらりと健康的な鳥居清長の対照も見て取れよう。葛飾北斎、歌川広重の有名な風景画シリーズも並ぶ。
画題は多彩だ。時代の先端をいく江戸の風俗が生き生きと伝わることだろう。アップで描かれた美人画や役者絵は、今でいうブロマイドのようなもの。庶民の楽しみや夢を彩った作品群から共感を得る人も多かろう。
今夏はしばし「憂き世」を忘れ、華やかな浮世絵の世界に浸ってみてはどうだろう。