民主党の代表選が、九月八日告示、二十一日投開票の日程で行われることが決まった。小沢一郎代表が三選に向けて意欲をみせる一方、対抗馬擁立を探る中堅、若手議員は様子見の状態で、無投票で小沢氏の続投が決まりかねない状況である。
小沢氏自身はまだ明言していないものの、代表選出馬は確実視されている。六月下旬のラジオ番組でも次期衆院選で民主党が政権をとった場合について、「僕が代表であれば僕が首相になる」と語った。菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長ら党幹部は早々と小沢氏支持を明言し、石井一副代表は先日、対抗馬擁立の動きに対するけん制とも取れる発言を行っている。
これに対し、代表選出馬が取りざたされる岡田克也副代表は「ノーコメント」を繰り返し、野田佳彦広報委員長も当面は岡田氏の意向や他のグループの動きを見極めていく構えだ。
意見の違う人々が集まり、寄り合い所帯といわれ続けた民主党である。今も前原誠司副代表らが執行部批判を行っている。対抗馬が立って選挙戦になれば意見対立が鮮明になり、党内に亀裂を生みかねない。衆院選を前にしこりは残したくない。そうした思いが支配し、無風選挙に向かう雰囲気になっているのかもしれない。
だが、異なる意見をオープンにぶつけ合い、政策に磨きをかけてこそ開かれた政党といえるのではないか。次期衆院選で政権奪取に挑む民主党にとって、今回の代表選は党として首相候補者を選ぶ重要な選挙になる。有権者としても、選挙戦を通じて複数の候補者による政権論争を期待したい。
小沢氏は最近の講演で、国会での官僚答弁を法律で禁止し、約二百人の国会議員を副大臣や政務官として中央省庁に送り込んで政治主導を確立する政権構想の一端を語った。代表選での論戦で、日本をどう導くのか、より体系だった政権構想を語ってほしい。
民主党は昨年夏の参院選で掲げたマニフェスト(政権公約)で、新規政策に必要となる財源十五兆三千億円を、行財政改革で確保するとした。だが、与党だけでなく、党内からも実現可能性を疑う声が出た。具体的な政策についても、代表選で各候補から練りに練った説得力ある内容を聞きたいものだ。
活発な論戦が展開される代表選を経ることで、党としての結束も強まるのではないか。代表選は、党の政権担当能力をアピールする場だ。志ある議員が臆(おく)せず挑戦すれば、有権者の支持も集まろう。
名古屋発東京行きJR東海バスの高速バスが十四歳少年に乗っ取られた事件で、逮捕された少年は警察の調べに「親に怒られ、嫌がらせでやった」などと供述しているという。動機は慎重に解明しなければならないが、少年による凶悪事件に衝撃を受ける。
少年は運転手の首に果物ナイフを突き付けてバスを乗っ取った。パトカーが取り囲み、逮捕した。乗客、運転手計十一人にけがはなかった。少年は、山口県宇部市の中学二年生で、自宅から現金を持ち出し、新幹線で名古屋まで来たと供述している。宇部市教育委員会などの調査では、少年は同じ中学校の女子生徒との交際をめぐってトラブルになり、担任や親から注意されていた。警察は一連のトラブルが事件の引き金になった可能性が高いとみているが、事件の凶悪性に比べ、動機はあまりにも短絡的だ。
高速バス乗っ取り事件では、二〇〇〇年に起きた十七歳少年による犯行が思い出される。一人を刺殺し、四人に重軽傷を負わせた。問題になったのは、非常事態を外部へ知らせるシステムがないなど、高速バスの無防備さだった。
その後、大手バス各社は「犯人に知られないうちに外部に通報する」などの対策マニュアルを整備したとされる。今回、運転席には外部に緊急事態を知らせる装置のボタンがあったものの、犯人を刺激しないようボタンは押されなかった。外部への通報は、偶然乗り合わせたJR東海バス男性社員の携帯電話からだった。
乗っ取りへの対応マニュアルを見直す必要があろう。不備があれば改善しなければならない。運転手や乗客の安全確保に、手荷物のチェックも含めた真剣な検討が欠かせまい。
(2008年7月18日掲載)