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2008年7月19日

 僕の場合は悔いが残る、という野茂投手の引退の声を、新鮮に聞いた。野球に限らず、「悔いはない」という引退声明をさんざん聞かされているからである

日米通算201勝の実績を持つ大投手に敬意を表して、引退の弁の格好悪さを表立ってあれこれ言う声は聞かれない。が、日本人の平均的な感覚からすれば、往生際が悪いとなろう

移籍したチームで次々とクビを言い渡され、格下の中米リーグに身を置いたこともある。再起を求めてもがく姿に、「もう限界だろうに」と、何度も首をかしげたファンも少なくなかったはずである

が、凡人ならずとも、悔いの残る日を重ねる時間の方が多いのではないか。あの仕事をやりとげないと死んでも死にきれぬ、と公言し、それを果たさずに去った芸術家を何人も知っている。悔いはない、と潔い引き際を飾るより、逆の言葉で心の中をさらす方が、よほど勇気がいるに違いない

周囲の思惑を気にする「島国根性」を、思いっ切りけ飛ばすような幕引きの弁である。並みの日本人では、こうはいかぬ。やはり、先駆者の名に恥じないNOMOではないか。


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