牧太郎の大きな声では言えないが…

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牧太郎の大きな声では言えないが…:モナのどこが悪い!

 都はるみが大好きで、500円のマフラーを首に巻く市原悦子演じる「大沢家政婦紹介所の石崎秋子」。幸せそうな家庭に派遣されるが、ここで垣間見るのは上流階級の偽り。最後は家族全員が集まる場所で秋子が「真実」をあらいざらいぶちまけて去っていく……ご存じ、テレビ朝日系のドラマ「家政婦は見た!」は12日の第26作「華麗な外交官一族の愛と欲」で完結した。

 1940年、千葉県九十九里で生まれた秋子は子どもを事故で亡くし、夫の浮気に悩まされ離婚。家政婦としてわずかな日当を稼ぐ毎日。83年7月2日放送の第1作「熱い空気」(松本清張原作)で「鼻持ちならない上流の人々に反発、形だけの幸福を破壊することに快感を覚える」という人物設定になった。

 視聴者も暴露の快感?に酔い、視聴率27・7%。プロデューサーが松本清張に続編の執筆を依頼したが「柳の下に二匹目のドジョウはいない」とつれなく断られ、設定だけを拝借することになる。その第2作は清張ビックリの視聴率30・9%だった。

 なぜ「家政婦は見た!」はフィーバーしたのか? それはのぞき文学?に徹したからだろう。25年前、推理小説ブームでもあったが、同時に週刊誌・ワイドショー全盛期。「家政婦は見た!」は君島一族、三越、ライブドア……最終回は外務省機密漏えいと、常に大事件を“下敷き”にしていた。井戸端会議で、家政婦仲間がそれぞれの意見を述べる。何やら1億総コメンテーター時代を先取りしたようなドラマだった。

 その25年間、皮肉にも「大衆ののぞき趣味」に応えるメディアは逆に衰退した。上品ぶって権力の発表をそのまま報道して平気な顔になった。

 それでも、某女性週刊誌が「モナ」と野球選手の一夜を暴露した。久しぶりの「家政婦は見た!」並みの大スクープ? ゴシップはいつも楽しいものだ。

 でも、その後がいけない。メディアはそろいもそろって「モナ」をいじめ、謹慎に追い込んだ。何で「モナ」はいけないんだ! 良く言えば妖艶(ようえん)、悪く言えば単なる「色狂い」じゃないか。大人の遊びじゃないか。

 そんなことで仕事を奪ってしまうなんて……。ドラマ「家政婦は見た!」では一度も殺人は起こらなかったが……ゴシップ報道で、主人公を社会的に抹殺するなんて……。これでは「ファッショ」じゃないか。(専門編集委員)

毎日新聞 2008年7月15日 東京夕刊

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