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e株リポート:特集 中国大失速 個人投資家の暴走

 ◇上海株のバブルが崩壊した理由

 ◇オリンピック後の反転に期待

 2007年10月にピークをつけた上海総合株価指数は、その後急速な落ち込みを見せ、バブル崩壊の様相を呈している。【田代尚機(TS・チャイナ・リサーチ社長)】

 上海総合株価指数の史上最高値(終値ベース)は2007年10月16日に記録した6092ポイントだった。その後9カ月弱の間、下げ相場が続いている。7月3日の終値は2704ポイントで、高値から56%下落した。

 この間、はっきりとしたリバウンドは2回あった。1回目は昨年12月中旬から1月中旬にかけての期間で、株式ファンド募集規制の緩和期待などにより1割強戻した。2回目は4月下旬から5月上旬にかけての期間で、非流通株流通化を制限する政策、印紙税引き下げなどから、2割強戻した。

 2回目のリバウンドの最中である5月12日には、四川大地震が発生したが、それでも株価は崩れなかった。しかし、その後は上昇することはなく、逆に6月上旬には急落。中旬以降は7月上旬に至るまで、底ばいが続いている。

 ◇ファンドの投げ売りが下げ要因に

 下落要因ははっきりしている。上げ過ぎた反動である。05年夏に998ポイントで底打ちを見せた上海総合指数だが、その後は少しずつ上げ幅を拡大。07年に入ると、荒っぽい動きを織り交ぜながら急上昇トレンドを描き、前述の天井を形成した。底値から天井までわずか2年3カ月。この間、指数は6倍に跳ね上がっている。

 未曾有の上昇相場で、個人投資家は全財産をつぎ込んだり、親戚一同から資金を借りて投資したりなど、バブルが発生するときの典型的な現象が見られた。

 本土証券市場の投資家構造(売買代金ベース)は、大雑把に言えば、半分が個人投資家、4割弱が背後に個人投資家を抱える株式ファンド運用機関が占める。つまり個人の熱狂が株急騰の主要因である。政府は07年初から、マスコミを通じて何度も、株高のリスクに注意するよう促してきた。07年夏以降、当局は新たなファンド設立の許認可をストップ。さらに秋以降、金融引き締め策を強化した。これらをきっかけに指数は下落に転じた。いったん歯車が逆回転し始めると、それを止めるのは難しい。買い手不在のまま、下落基調を続け、現在に至っている。

 最高値から現在までの株価の動きをセクター別に見ると、金融、不動産といった“バブル業種”や非鉄金属といったかつての材料株などの下げが厳しい。一方、通信、消費、バイオといったディフェンシブセクターの下げは比較的緩やかである。また、規模別に見ると、大型株の下げが小型株よりも厳しい。

 昨年の夏から秋にかけての最後の上昇局面では、ファンドが買いの主力であった。個人投資家の勢いは昨年夏の調整でいったん止まっている。

 今回の下げは、個人投資家の投げ売りというよりも、ファンドの投げ売りが要因だ。彼らが好む大型主力株の下げが厳しいのはそのためである。個人投資家の場合、そもそも大きく下がった大型優良株はあまり所有しておらず、投資に未熟で損切りができず、塩漬けにしている人が多いようだ。

 ◇さらなる株安が民衆の不満に

 株価がこれだけ下げたのだから、経済の至るところで影響が出そうだが、実際はそうでもない。過剰流動性状態が続いており、設備投資が高水準を維持しているうえ、所得が伸び続けていることなど、経済における外部環境が良いためだ。

 懸念される逆資産効果は、まったく見られない。月次の小売り売り上げを見る限り、消費は順調そのものである。また、民衆の不満についても、それほど大きくないようだ。北京五輪開催を間近に控え、政府の関心は、海外の多くの人々が注目する人権問題や、地方政府の横暴による農民の暴動などに集中している。もっとも、今年は雪害、四川大地震など暗いニュースが多い。これ以上株安が進むようであれば、民衆の不満は高まり、政治的な脅威になるかもしれない。

 現状では9割の投資家が含み損を抱えているといわれ、買い手不在の状態だ。ただしファンドは、解約が少なくないものの、それでもキャッシュリッチな状況にある。そもそも過剰流動性は、解消されるどころかますます深刻となっている。不動産に資金が回っているわけでもない。制度上の問題から、国際商品先物市場への投機に資金が向かっているはずもない。マクロ面で見れば、銀行預金が急増している。相場環境が変われば、簡単に資金は株式市場に流入するであろう。

 今回の大幅な下げによって、上海市場の平均PER(株価収益率、7月3日現在)は20倍となった。過去のPERと比べれば、バリュエーション自体は合理的な水準。これから中間決算発表が始まるが、全体でも2~3割程度の増益が見込まれよう。下期の増益率は鈍化しそうだが、減益は避けられそう。今のところ、下方修正懸念は強くない。

 もっとも、下期以降、物価上昇が企業業績に悪影響を与える可能性はある。価格に対して、政府は一定のコントロール力を持つが、原油、鉄鉱石など国際市況で価格が決まるものに対してはどうにもならない。これまで政府は、石油精製品、化学製品などを中心に、国内価格を抑えてきたものの、補助金の補填が追いつかず、企業収益の圧迫は深刻になってきた。

 また、市場メカニズムが働かないため需要が減らず、そのことが国際市況に少なからず影響を与えているといった批判も国外から出始めている。政府はすでに、石油精製品、電力価格などの値上げを認め始めている。今後、食品価格の上昇は落ち着きを見せるであろうが、原材料価格の上昇が関連製品へ波及する形で、物価を押し上げる可能性がある。資源輸入国である中国では、国際市況上昇によって、企業収益は圧迫されよう。

 ◇五輪前後に底打ちか

 需給要因では、今年6月から、非流通株(政府などが保有し市場で取引されない株)の全株流通が本格的に始まった。現在でも、発行済み株式総数の約3分の2が非流通株である。需給悪化懸念は根強い。非流通株の株主は、ほとんどが地方政府の傘下企業である。全株流通し始めた企業の株主は、政府からの暗黙の圧力を受け、相次いで今後2年間は株式を売却しない趣旨の発表を行っている。投資家としては、もう少し強制力のある政策発動を期待している。何らかの政策発動があれば、それが株価回復のきっかけになるであろう。

 足元では、最後の「五輪相場」があるかどうかに注目が集まっている。ただし、それは北京五輪を前にして民衆の気分が高揚して株が上がるのではなく、政府が機関投資家に買いを促すといった類のものでもない。政府がこの時期を選んで、政策発動するかどうかといったことである。期待される政策とは、株価指数先物取引の開始、信用取引の導入、IPO(株式の新規公開)認可の停止、新興市場の開設などである。

 現在、政府は株価対策よりも、インフレ対策、過剰流動性対策を優先させている。しかし、インフレの要因はコストプッシュによるもので、金融政策の効き目は薄い。政府は最小限の利上げにとどめている。過剰流動性についても、規制によって対処しようとしている。引き締め政策は継続されようが、市場が心配するほどではないだろう。資本市場改革の進展、人民元上昇、堅調な企業業績などを背景に、上海総合指数は五輪前後に底打ちし、上昇に転じるであろう。

2008年7月14日

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