社説(2008年7月18日朝刊)
[防衛省改革]
文民統制の実質固めよ
防衛省改革を検討してきた有識者会議が防衛参事官制度の廃止などを盛り込んだ最終報告書を福田康夫首相に提出した。
報告書の副題に「不祥事の分析と改革の方向性」とあるように、有識者会議は、防衛省の相次ぐ不祥事に対処するため昨年十二月、官邸主導で設置された。
インド洋での燃料補給活動に絡む給油量の取り違え、守屋武昌前事務次官による汚職事件、イージス艦機密情報漏えい事件、イージス艦「あたご」の漁船との衝突事故…。次から次に起きる不祥事は、防衛省・自衛隊に対する信頼を著しく損ねた。
なぜ、不祥事が繰り返されるのか。文民統制(シビリアン・コントロール)は果たして十分に機能しているのか。
防衛省・自衛隊はもともと、国民の目が届きにくい組織である。防衛機密を理由に情報開示を怠り、不必要なものまで機密扱いするような閉鎖的な体質を組織の性格として持っている。
外部から遮断された組織であるために、よほどしっかりしたチェック体制を築かなければ組織内部によどみが生じ、その場を糊塗する「隠ぺい体質」がはびこることになる。
有識者会議の報告書は、個々の不祥事の問題点を指摘した上で(1)規則遵守の徹底(2)プロフェッショナリズム(職業意識)の確立、などを求めている。その通りには違いないが、再発防止策としてはあまりに抽象的で、具体性に乏しい。防衛省・自衛隊の中で今後、これをどう形にしていくか、それが問題だ。
失われた信頼をどのように回復するのか。それが議論の出発点だった。
流れが変わったのは、石破茂防衛相が年来の持論である組織再編の実現に意欲を見せ、組織改革案を有識者会議に提示したあたりからだ。再発防止策が後景に押しやられ、組織改革論が議論の前面に躍り出る展開になった。
内局(背広組)と自衛隊(制服組)の統合という石破防衛相の主張は、内局と自衛隊の一部混合化という形で報告書に盛り込まれた。
(1)防衛参事官制度は廃止し、政治任用の大臣補佐官を設置する(2)内局の防衛政策局の次長クラスに制服組の自衛官を起用する、などである。
参事官は大臣を補佐するために設けられた制度で、内局の官房長、局長が兼務している。「文官(背広組)優位」の象徴とも言える制度で、制服組は早くからこの制度の廃止を主張していた。
文官優位は、文民統制を担保するものだといわれてきた。参事官制度の廃止と制服組の台頭によって、文民統制を変質させるのではないか―それが気になるところだ。
背広組と制服組の関係は、どのような形が望ましいのか。両者を混合化することによって何が生まれるのか。
そのことを考える場合、忘れてならない前提は、憲法九条のしばりがあるということと、文民統制の機能を最大限に発揮できる仕組みをつくる、ということである。
原則を踏み外したなし崩しの変質は危ない。
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