更新:2008年7月18日 12:00デジタル家電&エンタメ:連載・コラム
新清士のゲームスクランブルFF13がPS3独占を捨てたやむを得ぬ事情・E3を読む(上)
米ロサンゼルスで15日から始まったゲーム展示会「E3 Media & Business Summit 2008」。例年通り、マイクロソフト、任天堂、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の3社によるプレスカンファレンスが開催された(筆者は、ネットの中継映像を通じて視聴)。今年は大きな目玉のなかった年だが、任天堂の優位が確定的になってきたなか、見るべき点は2点あるだろう。(新清士のゲームスクランブル) 一つは、マイクロソフトのカンファレンス中にスクウェア・エニックスの和田洋一社長が「ファイナルファンタジーXIII(FF13)」の「Xbox360」版を欧米で発売すると発表したことだ。「プレイステーション3(PS3)」の独占タイトルだと見られていたのだが、なぜ方針を転換したのか。今回はその背景を考える。 ■Wii市場と上位機市場の分裂が鮮明に
少なくとも現世代の据置型ゲーム機競争においては、世界全体での任天堂「Wii」の勝利がほぼ確定した。北米市場は5月時点で累計1019万台まで伸ばし、累計1024万台で首位に立つXbox360に肉薄している。勢いは止まっていないため、日米欧のすべての市場で1位の座を獲得するだろう。 それとともにはっきりと見えてきたのは、市場の分断である。これまでは携帯型ゲーム機と据置型ゲーム機の2つに分かれていた市場が、さらに据置型のWii市場と、コアゲーマーが主体の上位機(Xbox360、PS3)市場の3つに鮮明に分かれてきた。 市場全体としてみれば、北米は繁栄をおう歌している。2007年のソフト売上高は86.4億ドル(約8700億円)と、06年に比べて34%以上も成長した(NPD調べ)。日本市場(3823億円)の倍以上である。 しかし、サードパーティーにとっては、据置型ゲーム機市場が分裂したことが頭の痛い問題だ。開発コストが跳ね上がっているにも関わらず、一つひとつの市場規模としては中途半端なサイズだからだ。 それでも、PS3とXbox360を合計するとWii市場よりもいまのところは大きい。そう考えると、FF13のXbox360への対応は、企業として合理的な判断だといえる。 スクウェア・エニックスUSAのコーポレート・エグゼクティブの橋本真司氏は、記者会見の席上で「(Xbox360版の発売は)それほどに前に決めたことではない」と明らかにしている。とはいえ、FFの開発チームが使うゲームエンジン環境「クリスタルツール」はもともとPS3、Xbox360、パソコンの3つのプラットホームに対応している。リリースするかどうかは、スクウェア・エニックスの判断とも言えた。 ■PS3独占により販売本数が伸び悩む「メタルギア4」
個人的な推測だが、スクウェア・エニックスが最終的に決断したのは、コナミが6月に全世界同時発売したPS3独占タイトル「メタルギアソリッド4(MGS4)」の販売状況を見てからではないかと思われる。MGS4の開発コストは70億円とも噂されており、FF13に近い巨大プロジェクトである。 MGS4はゲーム評価の「メタスコア」で94点を獲得した。任天堂をのぞく日本製タイトルとしては久しぶりの90点台で、期待通りの高い評価といえる。開発チームの面目躍如といったところだろう。 しかし、問題は販売本数だ。PS3の世界的な販売台数がまだ少ないことがMGS4の伸びに響くと懸念されていたが、果たしてその通りになった。コナミは、第1週で欧州で100万本のセールスを記録し、発売2週目で全世界に300万本以上の出荷を行ったと発表している。NPDの調査によると6月の北米での販売本数は77万本で、PS3とのセット販売分も含めると100万本程度になったようだ。それでもワールドワイドでの販売本数としては、開発費を考えれば必ずしも多くはない。日本での販売本数は約60万本である。 これに対して、4月にPS3とXbox360で発売になった「グランド・セフト・オート4」(テイクツー)は、1カ月間で850万本の販売に成功している。ゲームとしての評価は同じように高いだけに、仮にMGS4のXbox360版が同時リリースされていれば、早期に600万本といった販売本数に到達した可能性が十分あったと考えられる。 コナミは「ウィニングイレブン2008(Pro Evolution Soccer 2008)」をPS3、Xbox360、Wii、「ニンテンドーDS」、「プレイステーション・ポータブル(PSP)」、パソコンと徹底したマルチプラットホーム戦略で展開し、昨年1年間で欧米市場で380万本という販売結果を得ている(NextGeneration集計)。それをみても、MGS4がもっと伸び得る可能性を生かしきれていないことがわかる。 SCEのプレスカンファレンスで、米法人SCEA社長兼CEOのジャック・トレットン氏は、MGS4のXbox360版が今後リリースされるのではないかという噂を打ち消すように、「ブルーレイ・ディスク(BD)でなければ、MGS4は収まらなかった」と述べている。しかし、DVD2枚組みにするなど、方法は考えられる。つまりSCEとの独占契約といった縛りがついているからこその発言とも受け取れる。 ■独占戦略で過去失敗したカプコン ● 関連リンク● 記事一覧
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