ER型救急をモデル事業に
厚生労働省は7月17日、「救急医療の今後のあり方に関する検討会」(座長=島崎修次・日本救急医療財団理事長)に対し、現場の医師から「普及は困難」との見方が示されていた「ER型救急医療機関」について、モデル事業として実施するなどの内容を盛り込んだ中間取りまとめ(案)を提示した。しかし、ER型救急の定義自体が示されていなかったため、委員からは「定義が不明確」などの意見が出た。30日の次回会合で、中間取りまとめの内容を確定させる。(熊田梨恵)
【関連記事】
「救急拠点病院、現場を崩壊させる」
救急体制、「ハコ」より「ネットワーク」―舛添厚労相、現場を視察
「地域救急拠点病院」整備を提案─厚労省
舛添厚労相「二次救急に報酬で手当て」
特集・救急受け入れ「ベッドがない」(1) 中間取りまとめ案は、「救急医療の現状及び課題」と「検討事項」の2項目を中心に据えた。「検討事項」としては、▽救命救急センターに対する新しい評価▽救命救急センターの整備の在り方▽今後の整備の進め方▽ER型救急医療機関▽第二次救急医療機関の状況及び今後の整備▽特定の診療領域を専門とする病院の位置付け▽救急搬送において受け入れに至らない理由(「出口の問題」など)―を提示した。さらに、「ER型救急医療機関」の項目では、「モデル事業として一部地域において試行」との文言を盛り込んだ。
ER型救急医療機関をめぐっては、4月に実施したヒアリングで、現場の医師から全国規模でER型救急体制を普及するのは困難との見方が示されていた。ただ、前回の「中間取りまとめの骨子(案)」では「十分な検討には至らなかった」としながらも、「救命救急センターではないが救急に熱心な二次医療機関や救命救急センターを持つ医療機関が、徐々にER型を始めていけばよいかもしれない」と、ER型実施の可能性を示唆。さらに今回の中間取りまとめ案で、「仮に、厚生労働省として取り組むとすれば、地域や病院の状況に応じて、救命救急センターではないが活発に救急医療を担っている第二次医療機関や、救命救急センターを持つ医療機関のうち、ER型救急医療機関に関心を持つ施設が、徐々にER型救急医療機関に移行していくことを促す観点から、まずはモデル事業として、一部地域において試行的に実施し、徐々に全国的な支援を行っていくのが適当」と、具体的な内容に書き換わった。厚労省としては、来年度予算に盛り込み、モデル事業として実施することで、ER型の全国展開につなげたい思惑がある。
しかし、中間取りまとめ案の中では「ER型救急医療機関」の定義に関しては、「重症から軽傷まで、疾患、年齢、搬送手段を問わず、救急室(ER)に受診するすべての患者を受け入れる」など、国内で「ER型救急医療機関」と呼ばれている施設の概況について述べるにとどまり、定義自体は示していない。
これについて、坂本哲也委員(帝京大医学部救命救急センター教授)は「言葉の定義が不明瞭(めいりょう)。ER専門医が働いているのがER型救急医療機関なのか。多くの医療機関は、既存の体制でER型救急医療機関を実現しようとしているのが実態。ER型救急医を求めているのか、医療機関として(のER型の体制を)求めているのかが不明確」と指摘した。しかし、石井正三委員(日本医師会常任理事)から、「モデル事業というやり方に賛成」という意見があり、座長も「モデル事業でやり始めると、皆さんのコンセンサスも一定方向に向かうかもしれない」と述べるなど、モデル事業に肯定的な意見が多数を占めた。
■「救急拠点病院」の定義残る
一方、骨子(案)に記載されていた、救急医療の拠点となる医療機関をイメージした「地域救急拠点病院」(仮称)の名称は消えた。ただ、「一定の診療体制や活動実績のある第二次救急医療機関については、救命救急センターの例を参考にしながら、その評価に応じた支援を行う」と、地域救急拠点病院の定義の記載はそのまま残っている。これについて、厚労省の担当者はキャリアブレインに対し、「地域拠点病院と同じイメージだが、前回委員から反対もあったので記載しなかった」と述べた。
同拠点病院については、「機能を明確にしなければ、現場を崩壊させる」との懸念が現場から上がっており、舛添要一厚生労働相も、6月に東京都の江戸川区医師会を視察した際、「ただ拠点病院をつくればいいとか、箱物をつくればいいとかではない」と述べており、地域のネットワーク機能の充実を求めている。
この中間取りまとめ案通りに了承された場合、今年夏の来年度予算の概算要求に内容が反映され、ER型救急や、いわゆる「地域救急拠点病院」の整備が来年度から、それぞれの形で実施されることになる。
骨子(案)は地域救急拠点病院の具体的要件として、▽休日・夜間に、専門科を問わず、救急初期対応が可能な医師を専従で救急外来に配置し、入院治療を要する救急患者に必要な診療を常時行う(交代勤務制を採用)▽救急専用(もしくは優先)の空きベッドを確保▽消防機関からの受け入れ専用電話を設置し、搬送要請への応答を記録・分析、応需状況を公表▽レントゲン技師、臨床検査技師などを常時配置し、レントゲンや血液検査が可能▽医師の事務作業の補助スタッフの配置▽休日・夜間でも、急性冠症候群や脳卒中など緊急を要する病態の専門的診療が自施設か地域連携によって対応できる▽一定の救急搬送受け入れ数を達成―などを挙げていた。
更新:2008/07/17 22:24 キャリアブレイン
新着記事
医療ビジョン具体化検討会が初会合(2008/07/17 23:09)
軽症の救急搬送、10年間に56%増(2008/07/17 22:33)
ER型救急をモデル事業に(2008/07/17 22:24)
過去の記事を検索
キャリアブレイン会員になると?
専任コンサルタントが転職活動を徹底サポート
医療機関からスカウトされる匿名メッセージ機能
独自記者の最新の医療ニュースが手に入る!
【特集・第19回】本田宏さん(済生会栗橋病院副院長、NPO法人「医療制度研究会」副理事長) 産科、小児科、救急医療、リハビリ医療、外科など、危機にひんする日本の医療を立て直すため、全国の医師9人が立ち上がり、7月7日、「医療崩壊はこうすれば防げる!」(洋泉社)を出版した。厚生労働省が進めてきた医療政 ...
島根県では現在、県内の医療機関で勤務する即戦力の医師を大々的に募集している。医師確保を担当する健康福祉部医療対策課医師確保対策室が重視しているのは、地域事情などに関してできるだけ詳しく情報提供すること。実際に生活することになる地域についてよく知ってもらった上で、長く勤務してもらうのが狙いだ。同室で ...
WEEKLY
埼玉県戸田市の戸田中央総合病院には、今年もたくさんの新人ナースが仲間入りしました。人に寄り添う日々の業務は、緊張の連続でもあります。新人ナースの一日に密着しました。
医療セミナー情報