イランの核開発問題をめぐり19日にジュネーブで開く欧州連合(EU)のソラナ共通外交・安全保障上級代表とイラン側の協議に、米国のバーンズ国務次官も同席することになった。米政府は「これは交渉ではないし、イランと米国の個別協議はしない」と説明しているが、イランに直接関与しない方針を続けてきたブッシュ政権の外交政策の転換を示す動きとして注目すべきである。
バーンズ次官は7月9日に米議会で、「イランへの圧力を強めると同時に、イラン側が路線を変えれば何が得られるようになるかを明確にする」外交戦略を説明。この中で同次官は「われわれはイランへの関与を深める創造的な道を見つけようと努力している」と明言していた。
米国、英国、フランス、中国、ロシアの国連安全保障理事会の五常任理事国(P5)とドイツは、5月に開いた外相会合でイランへの対応の包括案をまとめ、ソラナ代表を通じイランに提示した。イラン側は安保理決議が求めるウラン濃縮活動の停止には応じないとしながらも、話し合いは続ける姿勢を見せてきた。
この「P5+1」提案は、イランへのアメとして最新の軽水炉技術の供与やインフラ整備の支援などを含んでいるという。米国の協議参加は同提案に対するイラン側の主張を米国が自ら聞く機会と位置付けられる。イランの最高指導者ハメネイ師は16日、ウラン濃縮継続にあらためて言及しており、外交決着の突破口がすぐに開ける可能性は低い。
ただし、バーンズ次官はリビアや北朝鮮を例にあげ、ライス国務長官の発言を引用して「米国には永遠の敵はいない」と米議会で強調した。米国単独でイランの行動を変えることはできないから、広範な国際連携による対イラン外交の枠組みをブッシュ政権の間につくることが重要とも主張している。「米国にとって第一の選択肢は多国間の外交による問題解決」という最近のブッシュ大統領自身の発言も、こうした国務省の路線を反映したものとみられる。
バーンズ次官は「実際の核開発はイランが広言しているほどには進んでおらず、完全なウラン濃縮には至っていない」との状況認識を示したが、米政権内にはチェイニー副大統領を中心に対イラン強硬論も根強いといわれる。イスラエルも武力攻撃を辞さない構えを示している。
イラン側がミサイル実験や米・イスラエルへの挑発的な発言を控え、安保理決議に応じてまずウラン濃縮を停止することが、緊張の激化を防ぐうえで引き続き不可欠である。