振り込め詐欺が多発しているため、関係機関が対策強化策を打ち出した。
警察庁と法務省は、金融機関と連携してATM(現金自動受払機)が利用される“水際”での被害防止に力を入れる。お年寄りらが多額を送金しようとしていたら職員らが注意し、聞き入れられない場合は警察官の出動を要請、警察官が説得したり、振込先の口座を凍結して被害を防ぐ。一方、サングラスやマスクなどで素顔を隠した者による現金引き出しを禁じ、犯行グループ側に金が渡りにくくする。ATMの1日の利用限度額を引き下げることなども金融機関側に要請する方針だ。
携帯電話各社も犯行に携帯電話が使われることを重視し、契約時に購入者の本人確認のため警察に運転免許証の照会を依頼することなどを決めた。施策はいずれも市民の自由を制限したり、負担を増やすことにつながるが、被害の甚大さを考慮すればやむを得まい。
警察庁によると、昨年の被害は約1万8000件、約251億円に及び、さらに今年は昨年の約1・6倍のハイペースで推移している。最近4年間の被害額が1000億円を突破、暴力団の資金源になっていることなどを勘案すれば、被害者の個人責任で片づけず、社会問題として取り組んでいかねばならない。
振り込め詐欺は核家族化や高齢化を背景とし、携帯電話やATMの普及に乗じる形で多発している。親族をかたり、不安につけ込む“オレオレ詐欺”が広がったため、模倣犯が増え、手口を巧妙に変化させながら犯行を重ねているらしい。最近は社会保険事務所や税務署の職員を装って還付金を支払うと持ちかける“還付金詐欺”が急増したため、被害が一段と拡大した。
お年寄りが狙い撃ちされるのが深刻な問題で、身近に相談相手がいれば防げた被害も少なくない。続発する事件の情報が周知徹底されていない面もあり、警察や金融機関、地方自治体などの広報はまだまだ不十分だ。先月施行された振り込め詐欺被害者救済法についての説明も不足しており、インターネットを使った公告方法などがお年寄りに親切なものとも言い難い。
お年寄りと別居している家族が、意思疎通を深める努力も求められる。今年の高齢社会白書は60歳以上の高齢者と独立した子との接触頻度が、諸外国より低いと指摘している。子と会ったり、電話をする回数が「週に1回以上」というお年寄りは約47%にすぎないが、米国では80%を超す。逆に「年に数回」しか接触がないのは約16%で、米国の3倍以上だ。
親子が疎遠なため気軽に相談ができなかったり、アカの他人からの電話を簡単に信じてしまうところはないか。振り込め詐欺の続発は世相の投影と認識し、幅広い観点から対策を講じる必要がありそうだ。
毎日新聞 2008年7月18日 東京朝刊