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福祉関連の本の紹介と、ちょっとした福祉にかんする話題を提供するコーナーです

No61 加藤春恵子 『福祉市民社会を創る:コミュニケーションからコ ミュニティへ』新曜社 2004年

キーワード:コミュニティワーク、コミュニケーション、福祉市民社会、NPO、ドロップイン、アウトリーチ


かなり以前に購入し、“つんどく”の1冊になっていた本であるが、これほど、コミュニティワークについて、また、ソーシャルワークについて書いてある本だとは知らなかった。イギリスのNPOの活発なコミュニティワークを知って、元気をもらえた。

イギリスには、市民の権利意識と自発的なパワーに支えられている福祉市民社会がある。福祉市民社会とは、行政による福祉サービスを基盤とし、市民がNPOのワーカーやボランティアとして有給・無給で働いてサービスを活性化させ、公的セクターと非営利セクターを組み合わせることで福祉サービスを維持・発展させていく社会である。

その原動力となるのが、情報伝達と対話交流の2側面をもつ市民のコミュニケーション力であり、それを鍛える「市民資金」と仕組みである。想像力と活力にあふれる有給のコミュニティワーカーと、ボランティアが、このコミュニケーションを強力に推進していく。

ソーシャルワーカーの仕事は、法律にそって行われるため、予算もたてやすく、公的セクターでおこないやすい。これに対して、法的に裏づけのない新しい活動を立ち上げ、展開していくコミュニティワーカーの仕事は、NPOで行われる。その給与は、「市民資金」を扱う組織に応募して確保する補助金と、政府からの公的補助金でまかなわれる。

本書は、彼らのコミュニケーションのやり方や物事の進め方を、目を凝らして観察することで(エスノメソドロジー)、「市民社会のエッセンスを抽出する」こと、つまり、福祉市民社会の組織や制度の水面下にある、社会の組み立て方を言語化すること、を目指している。

マイノリテイのための女性センターやメンタルヘルスサポートセンター、ハウジングトラスト、家族センター、ユースセンター、コミュニティセンターなど、福祉ではなく他の分野から転出してきた多くのコミュニティワーカーとボランティアたちの活動報告は、「エッセンス」の抽出に成功しているといえよう。

イギリスのような多文化共生社会とはまだ距離のあるわが国であるが、少子高齢社会という観点からも、コミュニティの活性化、福祉市民社会の成立の必要性は明白である。問題は、コミュニティワーカーをどう育てるかではなく、コミュニティワーカーの活動を可能にする「市民資金」とその確保・供給の仕組みだ。ソーシャルワーク論ではなくNPO論がさかんになるのは当然か。
No44 金子郁容 『新版 コミュニティ・ソリューション ――ボランタリーな問題解決に向けてーー』 岩波出版、2004年

キーワード:コミュニティ、コモンズ、コミュニティ・ソリューション、ソーシャルキャピタル

金子氏によれば、インターネット社会における2つの対照的な行動/問題解決軸は、
G軸:契約、リスクヘッジ、自己責任にもとづいたグルーバルな行動と問題解決
C軸:コミュニティ・ソリューション
の2つである。

このうちのコミュニティ・ソリューションとは、既存の組織や機構で対応できないているさまざまな問題を、メンバー間の情報共有とアクテイブなインタラクションによって、情報と関係性の共有地(コモンズ)をつくり、お互いの活動を相互編集することで解決しようとする方法のことである。

そのコモンズでは、
・ 人々が自発的に集まり、情報、技術、問題などをもちよる
・ 共有された情報が編集され、そのことでコミュニティの何かが変化し、新しい関係や意味が出現する
・ 情報や変化が経験され、蓄積、共有資源となる
・ 具体的成果があがり、各自が果実をもちかえる
ということが生じる。

こうしたコモンズの例としては、阪神淡路大震災の市民の会、禁煙マラソン、ケアセンター成瀬、事業型NPO、ファミリーサポートセンター、認証協議会等が紹介されている。

福祉の分野でもお馴染みのケアセンター成瀬やファミリーサポートセンターは、コミュニティのソーシャルキャピタル(コミュニティの関係性の資源 / コミュニティに蓄積された関係のメモリー)によってソリューションがうまくいった例と、その可能性を秘めた例として詳しい解説がある。

ファミサポは行政が仕掛けた住民参加型サービスである。だが、そこへの参加は住民の自発的な参加によるものである。「利用者と提供者を切り離さない」で、さまざまな会員交流活動を行うなどを通して、そこがコモンズとなれば、その活動の積み重ねによってソーシャルキャピタル(地域の保育力、子育て支援力)が蓄積されていく可能性がある、ということなのだろう。

自発的なコミュニティ資源によるソリューションは、今後、いっそう活発になるだろう。だが、福祉領域では、ファミサポのように自治体の仕掛けが必要な場合も少なくないと思われる。官民協働のコミュニティ・ソリューションである。
No39 木原孝久 『住民流福祉の発見』 筒井書房、2001年

キーワード:地域福祉、住民、ボランティア、助け合い

          
              2年くらい前だったか、朝日新聞の社説に、木原孝久さんの考案した地域福祉マップづくりという、「住民の間で自然発生的に生まれた要援護者支援のネットワーク探し」が、ある地域で広がっている、ということが触れられていた。高齢社会は、住民の助け合いがなければ暮らしにくい、という話のなかでだったと思う。

その木原さんのアイデアを満載したのが本書である。「福祉の主役は当事者だ」という主張を一貫させていて、「住民が主体の地域福祉」という認識を転換させてくれる。

「当事者宅を近隣福祉センターに」「『助けられ上手講座』を全住民に」「家庭の社会化」「ヘルパーセラピー」「ボランティアも見返りを」などなど、「なるほど」と思わされる発想や活動案がいろいろある。読んでいて退職したらやってみようかと思ったのは、自宅をオープンにした「シルバー・マージャンルーム」。マージャンは頭脳も使うし、何よりも人との交流が促進されボケ予防になる。

NHKの「ご近所の困りごと」(?)とかいう番組でも、地域住民によるさまざまな助け合いや共同活動が紹介されている。民生委員協議会、社会福祉協議会、地区社協、在宅介護支援センター、地域の種々の福祉施設、今年4月からの地域包括支援センターなど地域福祉に携わる組織や人々は、こうした番組や本書から活動のヒントをもっと得たらどうだろう。


No17 神野直彦・澤井安勇編著  『ソーシャルガバナンス ――新しい分権・市民社会の構図――』  東洋経済新報社  2004年

キーワード:ソーシャルガバナンス、分権、市民社会組織、市民活動団体、NPO、自治会、コミュニティ組織、

    最近、ソーシャルガバナンスとかソーシャルキャピタル(社会的資本)といった新しいカタカナ用語を見聞きする。ソーシャルガバナンスって一体何?

    「民間でできることは民間で!」と叫び続けた小泉自民党の圧倒的勝利によって、新自由主義の政策はますます進むと思われるが、ソーシャルガバナンス(以下、面倒なのでSGと略します)とは、神野先生の言葉を借りれば、新自由主義への対抗戦略である。「官から民へ」は、「官から私(市場)へ」ではなく、「官から公(市民)へ」であるべきで、「市場の失敗→福祉国家」、「政府の失敗→福祉国家のリストラクチュアリング:市場拡大」に代わって、「政府縮小→市民社会拡大」としていくのがSGである。
    すなわち、NGOやNPO、ボランタリー組織などの市民セクターが、政府機関の担っていた社会統治機能(パブリック・ガバナンス)を部分的に代替していくことを、SGは意味している。

    本書の章の多くは、サブタイトルに「新しい分権」とあるように、地域社会におけるガバナンス、すなわち、ローカルガバナンスを扱っている。そのため、NPOなどの自発的参加型の市民社会組織だけでなく、従来からある町内会・自治会といったコミュニティ組織(地域コミュニティ)も重要だとし、その「再生・創造」と、NPOなどとの有機的連携について述べている。
    では、その「再生・創造」と有機的連携はどのようにして可能なのか?これについてはやや抽象的という印象をもった。また、提示してある方法の実現性やその条件について触れて欲しいと思うところもある。もっとも、北九州市の市民福祉センターの事例紹介などを通して、少しは見えてくる。
     ソーシャルキャピタルについては、またいずれ。
ヘントン・J.メルビルK.ウオレッシュ、小門裕幸監訳 『社会変革する地域市民―スチュワードシップとリージョナル・ガバナンスー』 第一法規 2004年

キーワード:コミュニティ、地域圏、市民革命家、スチュワードシップ、ネットワーク

  今は、地域福祉の時代と言われている。市民が自分の住む自治体の福祉政策の企画・計画過程に参加し、市民の立場から発言していくことも、自分の住む町をすべての人々が「安心して住み続けられるまち」にしていく地域活動に参加することも、地域福祉、だと思う。

昨年、明石市の望梅地区のゾーン協議会が取り組んでいる「地域劇」を知る機会があった。ここは、在宅介護支援センターが事務局となって、中学校区の範囲にある種々の地域集団や、専門組織、それに行政が参加し、介護問題を出発点に「安心できるまちづくり」に取り組んでいる。ゾーン協議会のメンバーを中心に住民を巻き込んで行う「地域劇」は、住民の地域意識、まちづくり意識を促進する機能を果たしている。そして、「地域ふくし広場」という、行政関係者を招いて住民の対話集会の開催にまで発展している。

本書は、こうしたまちづくりの話というよりも、もっと規模の大きな地域圏における問題解決を市民リーダーたちによる社会実験として例示し、その方法を説明したものである。脱工業化時代の複雑化した社会における地域のガバナンス(自治)は、行政でもなく市場でもなく、地域の市民革命家、つまり、スチュワードシップ(人々からゆだねられているものを責任をもって管理するという精神)をもった市民活動のリーダーたちによる、ネットワークによって行われる。

両者は規模も違うし、目的も異なる。だが、まち(地域)に住む者の一員として地域をよくしていきたいという当事者意識を住民(市民)がもつようにするために、住民が集まる「空間」をつくりだすこと、また、住民が地域の問題解決過程に参加していくために、異なる認識や意見をデイベート(討論)ではなくダイアローグ(対話)によって相互理解を進めていくことなど、共通点も見いだせる。

でも、日本では、どういう人たちがスチュワードシップをもった市民革命家として登場してくるのだろう?一定の地域圏で市民革命家たちがネットワークを組んでいる例が、福祉の領域にあるだろうか?それを想像するよりは、市民主体のNPOやボランティア団体が福祉のまちづくりを担っていくことを想像するほうが容易だ。もっとも、知らないだけかもしれない。