◎台湾で九谷焼展 芸術交流の先陣を切りたい
台湾で今年十一月、九谷焼の一流作家の作品を集めて開かれる本格的な展覧会を、石川
と台湾の芸術交流の先陣を切る試みにしてほしい。
台湾には、中国伝統の陶磁技術の良質な部分が受け継がれていると言われ、源流を同じ
くする日本の陶磁器との共通点も多い。茶器を中心に、質の高い作品と優れた審美眼を持つ愛好者が多いことでも知られている。小松―台北定期便の就航により、観光客誘致に力を入れるのは当然としても、石川のお家芸である工芸分野を中心に、定期便を大いに利用して、相互に作品展の開催や作家の交流を進めていきたい。
輪島塗とともに石川の美術工芸をけん引する九谷焼は、世界戦略という点で、輪島塗が
サミットの盃として使われたりニューヨーク出店などの動きを見せているのと比べ、一歩遅れをとっている印象があるのは否めない。
もともと九谷焼は、明治時代に「ジャパンクタニ」としてヨーロッパで一世を風靡(ふ
うび)し、日本の工芸を世界に知らしめた立役者であっただけに、新たに世界へ打って出る一歩として、台湾に九谷焼の名を定着させたい。
石川と台湾の工芸界の関係で言えば、これまで台湾作家の研修を県内で受け入れたり、
県内作家も台湾で個展を開催するなど、交流が徐々に進んできた。
二〇〇六年十一月には、台北で石川・文化の翼「石川の工芸・台北展」が開催され、文
化功労者や人間国宝をはじめ、展示された日本を代表する県内作家の秀作が反響を呼び、定期便実現への大きな節目となった。今後も美術工芸を中心とした芸術交流を進めることが、末永く台湾との縁をつなぐ重要な要素となるだろう。
今回の九谷焼展覧会は、県陶磁器商工業協同組合が初めて開催するもので、高級感を打
ち出して富裕層にアピールするという。他の工芸分野も後に続いてほしい。また、交流に意欲的な作家や業界団体、あるいは県内で展示を希望する台湾側関係者への県や自治体の後押しも大切だ。こうした交流を継続することが、観光誘客にも着実に反映するはずである。
◎教員採用汚職 わいろ、改ざんは悪質
教育界ぐるみの、あきれるばかりの不正、腐敗の実態が次々と明らかになってきた。大
分県の教員採用や昇任をめぐる汚職事件である。小学校の校長らがわが子を教員にするために、教育委員会幹部に多額の現金や商品券を贈り、幹部たちは試験の点数を水増しして不正に合格させていた。合否の事前通知ならまだしも、わいろや点数の改ざんは極めて悪質である。教育者としての倫理観をどこかに置き忘れた愚行と言うほかない。
大分県に限らず、教員採用試験にはとかく縁故優先のうわさが付きまとう。閉鎖的な社
会で、慣れ合い、もたれ合いの体質があるからではないか。〇六年には大阪府で、一九九〇年には徳島、山口県でも教員採用・昇任をめぐる汚職事件が摘発されている。
県議の口利きが横行しているのも気になる。今回の汚職事件を機に、文部科学省が全国
の都道府県に問い合わせたところ、新潟、長野、茨城、山梨、千葉県の教員採用試験で、県教委が県議などからの問い合わせに対し、合否の事前通知をしていたことが判明した。大分県では実際に、政治家の口利きが合否に反映されていた可能性がある。採用および昇任人事に関する選考基準や合否判定、開示ルールなどについて、客観性と公平性を高める工夫が求められよう。
わいろや改ざんは論外だが、親が教員だからといった実情や政治家の口利きが合否を左
右することもあってはなるまい。教員採用だけでなく、あらゆる公的機関の採用試験で、受験者が公平・公正を実感できるようでないと、地方の活力は失われていくばかりだ。
大分県教委は、過去の試験を調査し、不正によって合格したと認められた場合は採用を
取り消し、本来合格していた受験者を救済する方針を決めた。社会正義を貫くために必要な措置なのだろうが、当事者たちの心境はいかばかりか。不合格通知で教員をあきらめた若者もいるだろう。いきなりクビを宣告される現職教員もつらいはずだ。不正の温床を断ち切らないと、再び不幸な若者たちを生み出すことになってしまう。