猛烈な暑さにへばり気味になって入った店で、「ハモはいかがか」と主人に薦められた。京都・祇園祭につきものという京料理である。北陸ではまだなじみは薄いが、漁業ピンチの折でもある ハモは小骨の多い魚で、包丁で身に細かい切り込みを入れる「骨切り」という熟練の技の下処理が必要になる。骨切りしたハモを熱湯に通すと、白い花が咲いたように開く。牡丹(ぼたん)ハモである 出されたのが関西ものかと思ったら、能登でおいしいハモがとれると教わった。知らなかった。骨切りという面倒な手間をかけなくても、魚のごちそうはほかにいくらもある。かつて当地では、とれ過ぎたハモは畑の肥やしにされたという 似た話を聞いたことがある。「富山湾の宝石」として人気を集める白エビも、流通手段が整う前は売れ残ると畑行きだった。もったいない話である シャキシャキという骨切りの軽やかな音をたてながら、京都で修業した主人が言った。「北陸の人は、食にぜいたく過ぎる」。ほめられたのか、それとも、身近なお宝をよく知らない「ふるさと不足」を、軽くたしなめられたのか。
|