<自分のことは棚にあげよう。>
高梁市にある成羽町美術館のミュージアムショップで“おみくじ”を引いたら、こんな言葉を引き当てた。
実はこれ、ことばや文字をモチーフにした創作を続ける現代美術家・イチハラヒロコさんの「恋みくじ」という作品の一つ。同美術館での個展(九月九日まで)初日に訪れ、体験してみた。別に恋をしているわけじゃないけれど、思わずニヤリとしてしまう。
イチハラさんの創作のテーマは「愛と笑い」。「あのときははやすぎて、いまではおそすぎる。」「人生は後かたづけ。」…日常生活で交わされる言葉に独特のひねりが加わったフレーズを目にすると、さまざまな感情が呼び起こされてくる。若い女性にファンが多いのもうなずける。
展示会場を巡るうちに、かつて所属した整理部(現・ニュース編集部)での「見出し」をつける仕事を思い出した。限られた時間、字数で、記事の趣旨に忠実かつ、自らの個性も織り込んでいく。新聞製作とアートを同列に論じるのは無理があるかもしれないが、イチハラさんの創作と似通った部分も多いような気がする。
「ことばは時代とともに激しく移り変わるもの。だからこそ普遍的な内容を心掛けている」とイチハラさんは言う。分野は異なるが、同じく社会にことばを発信する者として、読者の琴線に触れる記事とは何か、自問自答を続けなければ―。そんなことを考えさせられた。(高梁支局・神辺英明)