サブプライム住宅ローン問題に端を発した米国の金融不安は、米政府系住宅金融大手二社が経営悪化に陥る新たな危機に見舞われている。米政府と連邦準備制度理事会(FRB)は、緊急支援声明を発表するなど沈静化に躍起だ。
経営難に直面しているのは連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)である。ともに米国民の住宅取得を促すため公営企業として設立され、後に民営化された。サブプライム問題で民間金融機関が融資をためらう中で、米政府は「半官半民」の両社を低迷する住宅市場のてこ入れに利用した。
両社が保有、保証する住宅ローン関連の証券化商品は約五兆二千億ドル(約五百五十兆円)に上るという。「暗黙の政府保証」がある半官半民の金融機関と受け止められ、発行する債券の人気が高く海外でも幅広く買われている。
経営破たんという事態になれば、米国内はもちろん世界に新たな金融危機が広がる。ドルの信認も損なわれよう。日本も大手金融機関が政府系住宅金融などの発行する政府機関債や住宅ローン担保証券を開示しているだけで約九兆六千億円(三月末時点)保有しているとされる。ひとごとではない。
今回打ち出された主な支援策は、米政府が両社への融資枠の拡大や公的資金による資本増強を検討する。FRBも低利の公定歩合で資金繰りを支援するなどである。政府が後ろ盾となることを鮮明にし、消極的だった公的資金の投入にも触れた。
だが、効果は不透明といわざるを得ない。緊急支援声明という積極姿勢とは裏腹に米当局の発言はトーンダウンし、市場の反応も冷ややかだった。
ポールソン財務長官は議会での証言で、支援策について「一年半の暫定措置」で、公的資金の投入を「すぐに実施する予定はない」と述べた。ブッシュ大統領も会見で政府による国有化を否定した。米国では公的資金を金融機関に投入することへの抵抗感が強いとされる。納税者の批判を恐れてか、後退姿勢が見え始めた。FRBのバーナンキ議長も議会証言で、低金利の公定歩合融資は議会が財務省の融資枠拡大を承認するまでの「つなぎ措置」とした。
深刻化するサブプライム問題を打開して、新たな世界の金融危機を招かないようにすることは米国が負う責任といえよう。そのためにも、迅速かつ大胆な金融政策と実行力が問われる。腰が引けていては効果はおぼつかない。
不祥事が相次いだ防衛省の改革を検討していた政府の有識者会議は、改革案の最終報告書を福田康夫首相に提出した。
防衛省の内局や統合・陸海空の四幕僚監部の現行体制は大枠で維持しながら、内局官僚(背広組)と自衛官(制服組)の混成化を促し、防衛省の組織を根本的に変えてしまう内容だ。実現すれば、一九五四年の旧防衛庁設置以来の大規模な改革となるのは間違いない。
報告書では、内局の運用企画局を廃止して統合幕僚監部に部隊運用機能を一元化する。内局幹部がポストを占め続けることで弊害が指摘されてきた防衛参事官制度はなくす。背広、制服組幹部でつくる防衛会議を最高審議機関として法律で明確化することなども挙げられている。
改革をめぐっては、五月に石破茂防衛相が、内局と各幕僚監部に分かれた現行体制を機能別に再編する独自の改革案を提出したが、省内から反対論が噴出し官邸との調整が難航した。
防衛省の一連の不祥事の背景に、制服組と背広組がお互いに責任を押しつけ合って動かず、両者の意思疎通にも欠ける側面があったのは確かだ。混成化は縄張り意識解消につながろう。
職員の規則順守徹底、プロ意識に徹した倫理観や使命感の強化、背広組と制服組の一体感の醸成による協働なども挙がっている。結局、職員全体の意識改革が何よりも重要だ。
報告書では、安保政策に関して首相を補佐するアドバイザーを新設し、官邸の司令塔機能を高めることも盛り込まれた。文民統制を維持するために政治の役割は一層重要になろう。
政府は今後、報告書を基に組織改革の実現に取り組むことになる。防衛省改革について国民に丁寧に説明していくことが欠かせない。
(2008年7月17日掲載)