皆さま、暑い毎日が続いていますが。ぼくはさっそく夏風邪を引いてしまいました。毎日、なんとなく身体がダルくて、調子が悪いです。

じつは2年前に大きな病気をしたのが、ちょうどこの季節。家で仕事をしたり、お茶を飲んだりしていると、不意に入院生活のことを思い出したりします。7月は自分にとっての、敗戦記念日、という感じでしょうか。

ようやく2年、こともなく過ごしたので、もう一度だけ、検査入院して、何も心配事が見つからなければ、あの病気も卒業、ということで、と、担当の先生と話していたのですが、ひどい夏風邪のせいで入院は一時キャンセル、卒業もお預け? なんともガッカリした今週でした。

まあ、すべては自分の不摂生のせい。皆さま、眠る直前にはエアコンを消しましょうね、って、小学生みたいな話でスミマセン。でも今週は家にこもって、しばらく聴いていなかったレコードを漁ってました。クアルテット・トレ・ビアンの最高にカッコいいレコードとか聴きながら、熱い緑茶を啜っておりました。

さて、きょうの「レコード手帖。」はついに登場、拍手、ロック漫筆家の安田謙一さんです。もう、このウェブサイトがリニューアルしてから、もっとも登場を願う声の多かった執筆者がこの方だった、と言っても良いでしょう。

でも、どうして、いままで登場しなかったか、と言いますと、それは小西康陽が安田さんにお願いしていなかったから。えー、事は去年の夏、「ミュージック・マガジン」という雑誌で「渋谷系」特集が組まれたとき。以下は小西康陽の黒革の手帖(鍵付き)から。


「ミュージック・マガジン」最新号。「渋谷系」特集。インタヴューが掲載されている。
ただディスクガイドの「roger nichols & the small circle of friends」の記事のところに、細野晴臣が家を訪ねてきたとき、小西康陽はこのレコードをいちばん前に置いて反応を窺った、云々ということが書かれていた。どうしてこのような事実無根のことを書くのだろうか。細野晴臣氏が語った事実、ということか。

当時、細野氏のマネージャー就任2日目の和田博巳氏が電話をかけてきて「これから行く」と言ってから、当時の白金の自室にふたりが来たのはほんの5分後。当時、レコード棚の前には、やはり買ったばかりの新譜や、よく聴くレコードが何列も立てかけられて、さらにそのレコードの列の上にDX-7、というキーボードが置かれていたのを思い出す。そんな作為的な行為を咄嗟に出来る訳もない。
ただ細野氏は入ってくるなり、いちばん手前に置いてあったレコードを見て 「お、ロジャー・ニコルズ」と言ったのは、 頭の中のヴォイス・レコーダーに、はっきり残っている。自分の中の鮮明な思い出だけに、誰が読んでも捻じ曲げられて受け取られるような話にすり替えられているのは不愉快。署名を見ると安田謙一、という名前。この不愉快をどう処理すべきか思案中。

クダラネー、とか、やっぱり小物だねえ、と、笑いたい人はどうぞ。でも、この記事が出てから数週間後、ある間抜けなライター氏が、こともあろうに「渋谷系」についてのインタヴュー本を企画しているので、と、取材にやってきて、「細野さんが初めて家にやってきたとき、ロジャー・ニコルズのレコードを前に立て掛けたそうですけど」、と薄笑いしながら尋ねて、思い切りドヤされてました。もちろん、ワタクシに。

まあ、安田くんとも、この先お互い会うこともなければ、それでいいか、と考えていたのですが。でも今年3月に大阪「カーマ」でお会いしたときに、ああ、悪気はない、って人だなあ、やっぱり、などと思いまして。そして5月、やはり大阪「カーマ」の翌日に、本の出版記念イヴェントですっかりお世話になりまして、そのとき、今度「レコード手帖。」執筆お願いします、と言ってお別れして、そして昨日、もう「レコード手帖。」の原稿のストックが本当にない、いつも送ってくださる執筆者の皆さまの原稿は今月すべて掲載してしまった、たぶん来週から連載休止か、と考えながら、ちょっとワラをもすがる状態でメールを出したのです。そうしたら、この原稿が、ぴったり5時間後に届いていたのです。さすが、プロ。この世でいちばん大切なモノはやっぱりタイミング(小倉優子)、という言葉の重みを噛み締めました。いや、上の理由はちょっとお楽しみで、本当はプロの著述業の方に、原稿料も支払わずにご執筆いただくのが心苦しい、というのが、遠慮していた本当の理由なのですが。

そんなワケで。「レコード手帖。」バックステージはいつも自転車操業です。たった一回だけ、素晴らしい原稿を書いてくれた人は何人もいるんですが。みんな実人生、というのがあって、忙しいのでしょうか。明日は明日の風が吹きますね。

ビーチェさんのアルバム「かなえられない恋のために」、ついに完成品が手許にやってきました。オレンジ色のニクイ奴。来週発売。ああ、この間書いたコピー、「この夏はビーチでビーチェ。」あるラジオ番組で言わされるハメになりました。言葉というのは自分に帰ってくるものですね。週末のDJは「制作室から。」ご覧くださいな。では、きょうも。

(小西康陽)