[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

DATA

開催日:2006/2/5
レポーター:出口
課題:グレッグ・ベア『ブラッド・ミュージック』

RESUME

グレッグ・ベア『ブラッド・ミュージック』ハヤカワ文庫SF


・ 著者略歴
1951年米国、カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。1967年、若干15歳で「フェイマス・サイエンス・フィクションズ」誌にて「destroyer」でデビュー。1982年の中篇「鏖戦」(Hard fought)におけるネビュラ賞受賞をかわぎりに、1983年短編「Blood Music」でネビュラ賞、ヒューゴー賞受賞、1986年短編「タンジェント」にてネビュラ賞、ヒューゴー賞受賞と輝かしい受賞暦を持つ。受賞した短編「Blood Music」を長篇化させたものが今回の課題本である。著作はハードSFからファンタジーまで幅広いのだが、SF作家としての認知が一般的で本作品が代表作と言ってしまって良いだろう。伊藤典夫 編『SFベスト201』(ハヤカワ書房)にも取り上げられていることから、日本での人気の程がうかがえる。スター・ウォーズの大ファンで、奥さんがSF作家ポール・アンダースンの娘というところが少し面白い。

・ あらすじ
1:分裂休止期
   前置き。人類が生態系ヒエラルキーの頂点であることに対して疑問を投げかける。
2:分裂後期
   ジェネトロン社に勤務するヴァージルは、非常に優秀な遺伝学者であるのだが衛生的でなく、かつ他の研究者と折り合いをつけていくことの苦手なタイプの男である。彼は会社に黙って自律有機コンピューター(知性を持った微生物)の研究をしていくのだが、それが倫理規定で決められた許可申請を満たしていないことと会社の方針と合わないことが原因で研究の放棄と退職を命令される。諦めきれなかった彼は、研究成果を持ち帰るため自身の血管に研究中の微生物を注入してしまう。
   その後再就職先を探していた彼は、バーでキャンディスという女と知り合い恋人関係になる。ジェネトロン社のおかげで再就職のままならない間に、彼の身体は若返り趣味嗜好まで変化していく。母親に血管内に微生物を注入したことを知らせる。母親は彼に忠告する。キャンディスにも現状を知らせ、キャンディスは深刻に受け止める。
3:分裂前期
   ヴァージルは身体の変容を自覚し、その分野の研究者として最高の評価を受けているバーナードと連絡を取り合うようになる。また、大学時代の級友エドワードに自身の身体の精密検査を依頼し、変容していることを確認する。ヴァージルはエドワードに対し、体内で微生物の細胞群が知性を持ち始めている、もしくは持っていることを主張する。
   それからヴァージルは体内の細胞群とコミュニケーションをとり、エドワードはバーナードと直接会いヴァージルについて話し合う。それからエドワードがヴァージルに会った時には、彼は浸かっている風呂の湯をピンクに染めるようになっている。発言の異様さもあいまってか、エドワードはそのままヴァージルを感電死させてしまう。しかし、エドワードは自身が感染していることに気付き、体内の細胞群とコミュニケーションをとる。時を同じくして自身が感染していることに気付いたバーナードは、自らの身体を被験体として提供する。そして二人は聴く。Blood Musicを。
4:分裂中期
   スージーは、家族が唐突に消えていることに気付く。彼女は薄茶色の膜のようなものと戦いながらも街全体に人を見かけないことから、街には自分一人しか生き残っていないと結論付ける。そのうちに電灯は消え、ラジオは悲観的な報道を流し続ける中で、彼女は強く生きることを決意する。それからしばらくは逞しく生きていく彼女だが、ある時夢の中のような状況下で家族が現れ、微生物を受け入れるよう説得を開始する。しばらく悩んだ彼女だったが、彼女は自分を変えずに生きていくことを選択する。
   その頃、バーナードは普通の環境での感染者がすぐに変容していくのに対して自分の身体が変容していないことを疑問に感じる。国々が互いに緊張状態になっていく中、バーナードはついに体内の微生物とコミュニケーションをとることとなる。また、“情報力学”なる分野の専門家ゴガーティの理論によると、知性体は観察によって物理法則をつくり出しており、人類に比べ遥かに多い知性を持った微生物は、物理過程まで干渉できるということだった。そしてバーナードは体内の自律有機コンピューター(つまり知性を持った細胞群)へと自身の意識をうつし、彼らとより綿密なコンタクトをとる。彼らは無線を用いず遠隔通信を行なっており、一つの《思考宇宙》なる情報空間を形成している。そこで彼はヴァージルに出会う。その後バーナードの身体は恐怖に駆られた人類の攻撃の前に滅びるが、彼の意識は《思考宇宙》の中で生き続け、ゴガーティらにメッセージを送る存在となる。
   また、ヴァージルの母親は世界が微生物で満たされていく中で、前もってヴァージルの話を深刻に受け止めていたため隠居しており、感染しないで済む。彼女は偶然知り合った若者らと一緒に、全てが始まった地、すなわちヴァージルが血管に注入した場所へと向かう。
5:分裂終期
   ゴガーティには、各地から発見されたバーナードからのメッセージが届けられる。情報を総合すると何らかの大変化が起こるということがわかる。
   スージーは家族からの誘いを拒否したとき、コピーを作られていたことを感じ取っていた。オリジナルとコピーは対面する。
6:分裂休止期
   そして世界は、そして日常は《思考宇宙》において再び始まる。
何一つ失われない。
それは血の中に。
それは肉の中に。
そしてそれは今、永遠になったのだ。

〜体細胞分裂〜
1:間期(interphase)・・・細胞分裂に必要となる物質の合成などを行なう。
2:M期
 (@)前期・・・分裂染色体になり、核膜が消失。細胞の赤道面に染色体が並び始める。
(A)中期・・・細胞の赤道面に染色体が並ぶ。
(B)後期・・・染色体は分離し、左右へと分かれていく。
(C)終期・・・染色体は左右にきちんと分かれ、間期に近い状態に戻る。核膜再生。

話し合う点
・ 身体の変容と精神の変容との関わり。精神の変容は身体の変容から引き起こされたのか、それともただ単に微生物による洗脳か。
・ これは“共生関係”といえるか。もしくは、“進化”など、何かしら人類と微生物との関係を適切に表す語はあるか。また、この関係はなんらかの比喩を見ることが出来るか。
・ ガジェット等参考になったところ、感想、ハードSFとしてどうかなどなど。


[トップを表示する]