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2007-12-26 21:16:27

アスペルガーは失言を誘う

テーマ:アスペルガー症候群
アスペルガー症候群の一部にドクターショッピングばかりしている人たちがいる。そのような人たちがうちの病院にも時々流れてくる。ドクターショッピングになる理由だが、精神科病院やクリニックに行っても、彼らのニーズに応えてくれないということがある。転院のきっかけは、「ひどい扱いをされた」とか「気に入らない看護婦に意地悪なことを言われた」などの病院の応対についての不満や、「静かな病院に変わりたい」、あるいは漠然と「主治医との相性が悪い」というものもある。

ところが、他の病院に行ったとしても、彼らの悩みはなかなか解決しない。うちの病院にやってきたアスペルガーのドクターショッピングの人たちでは、正しく診断されていることが過去に1度もなかった。こういうことを見ても、適切な扱い方をされていないことが想像できる。

ところで、アスペルガー症候群なる診断は、精神科ではそれほどされていないように思っている。僕のある友人によれば、精神科医になってから「アスペルガー諸侯群」と診断したことがないのだそうだ。その程度の普及率なのである。むしろ、バカの一つ覚えのように「アスペルガー症候群」を乱発する人に比べたら、はるかにまともな精神科医と思う。

だったら何と診断されているかというと、おそらく「状態像」であろう。もちろん、「うつ病」や「統合失調症」とされている場合もある。実際には、うつ状態はともかく、統合失調症と診断した場合は、「典型例ではない」とは思われていることが多い。薬物治療的にはそこまで大きな違いがないので、対応の仕方だけだと思う。もちろん、そこが落とし穴でもある。

個人的に言えば、アスペルガー症候群だったものを「統合失調症」と診断された場合、メリットになることも多いと思う。なぜなら、アスペルガー症候群では障害年金が受けられない確率が極めて高いから。僕の県では数年前まで「アスペルガー症候群」で年金がアクセプトされたことがないらしいのである。(理由はIQが高いため。この傾向は今でもそうかもしれない。アスペルガーで受給できるかは県による)

僕の患者さんでは統合失調症と誤診されたためにかえって年金を受給できている人が2名いる。まあアスペルガー症候群にはそう診断する明確な証拠がないので、誤診というのは統合失調症と診断した医師に対しあまりに失礼な言葉ではある。

彼らがひどい扱いとか意地悪をされたと思うようになるのには伏線がある。強迫のために看護スタッフや医師に繰り返し同じような話をしたり、どうでもよいようなことで確認を求めたりする。無駄な繰り返しが多すぎるのである。これが毎回積み重なってくると、やがて看護スタッフらにうざがられるようになる。彼らは自分本位の話し方ではあるし、相手が嫌そうにしていても空気も読まず、時にアスペルガーっぽい毒舌だったりする。くどいし、かわいげがないし、無愛想だし、ついに相手がキレてしまうのである。

そうして、看護者あるいは医師の大失言が出る。

僕の患者さんでは、かつて調剤薬局でこれを食らった人もいる。彼女は薬剤師から「あなたは精神障害者でしょうが!」と言い放たれたらしい。これは想像するとちょっとウケル(柳原可奈子風に)。もっとも、本人は切実であろうが。

アスペルガーの人は言葉には敏感なので、相手がキレてきついことを言った時、はっきりした言葉ならだいたいそれに気付く。曖昧な表現ならそれに気付かないことはありえる。一般の患者さんならその流れが読めて一連の出来事からそうなったことがわかる場合もあるが、アスペルガーの人にはそのストーリーに気付くことは難しい。突然、理由なく嫌なことを言われたと思ってしまう。このような経験は彼らの頭に刻み込まれ一生消去されることはない。そういう積み重ねが恨みの原因になっていることもある。(参考

ところで、アスペルガーの人の毒舌であるが、あんがいユーモアがあったりするのは不思議だ。これは言葉遊びというか、たぶん意識してやっているのではないと思うのであるが、周囲からはそんな風に見えることもある。嫌味を言われた時、ショックを受けて傷つくのが、分裂病質人格障害の人と違うところ。後者の場合、たぶん嫌味を言われたことにすら気がつかないだろうから。

ずっと以前、ある女医さんにこのような話していた時、最後の「分裂病質人格障害の人は嫌味を言われたことにすら気付かない」という部分がバカ受けであった。なぜバカ受けだったのか、覚えていればいつかアップしたい。

アスペルガーの人たちに比べ強迫性障害だけの人たちは、彼らの悩みを看護者や医師に長い時間聞いてもらっている時、そのどうでもよさや不毛さをわかっていて、相手を気遣い気の毒がって話していることが多い。その意味では心のギブ・アンド・テイクが存在している。その点でコミュニケーションがまだ噛み合っている。

実はアスペルガーの人たちには、このような言葉のやりとりは日常茶飯で起こっている。だから、やがて周囲の者との円満な人間関係が保ちにくくなり、遂に職場にいることが耐えられなくなる。次第に支援者を失い、孤立せざるを得ないのである。

ところで、上に書いた、「くどいし、かわいげがないし、無愛想だし・・」と思うのは医師や看護師の「逆転移」に他ならない。もちろん「大失言」もそうである。医療にかかわる人は、彼らと話している際にカチンときて、言うべきでないことをうっかり言ってしまいかねないことを常に意識していないといけない。

僕はアスペルガーの人が入院した日、カンファレンスで「アスペルガーは失言を誘う」という感じで看護師さんたちにこういう話をしている。僕は医師や看護者は、何かにカチンとして変なことを言うべきではないのは、相手がアスペルガーであれ統合失調症であれ変わらないと思う。

精神科治療という側面ではアスペルガーも統合失調症もない。もしアスペルガー症候群という診断がなかったとしても、僕にとって精神科診療は何も変わらないと思う。

コメント

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■オオウケですw

>彼女は薬剤師から「あなたは精神障害者でしょうが!」と言い放たれたらしい。

いつも寄ってる調剤薬局を想像したらす悪いですけどオオウケしてしまいました。きっと細かいどうでもいいようなことを何回も何回も話し続けてキレられてしまったんでしょうね。

私も調剤されてる薬を見たら精神病なのはよくわかるからしつこくしたら同じこと言われちゃうのかな。

■笑えない

アスペルガーのことはあまりわかりませんが後半部分について言えば自分と一緒だと思いました。

私は母に確認をしてもらいまくっているので(いわゆる巻き込みというのでしょうか)、人事ではありません。よくキレないで対応してくれていると思います。

自分だけでは安心できないのです。

■デプロのせい???

彼氏と一回別れる事になって同時期に
デプロ飲み始めたんだけど、いきなり
脅迫めいたメール何通も送ったりして
後で後悔><自分何でこんなことして
んだろ?みたいな。。。

■精神科医として

こういう裏事情を暴露する貴方の根性が信じられません。精神科医は変人が多いらしいけど、本当ですね。貴方達に大きな権限を持たせていること事態、恐ろしいです。

■無題

今回の記事、参考にさせていただきます。
私もアスペルガーの診断をしたことがない医者です。統合失調症、だけではどうも説明がつきにくい患者さん、結構いらっしゃるんですよね。
だからって、即、発達障害、と言うわけでもないのでしょうが。。

kyupin先生のように理路整然とした思考回路で診察に当たりたいものです。
私の診察は、いつも短い時間の中でやや混乱・脱線気味です。何を目標にして良いやら「迷い」の日々です。

■他山の石

調剤薬局に勤務する薬剤師です。いつも興味深く拝見させていただいております。一つ一つの薬について医師がどうお考えであるかたくさんのヒントを貰いました。kyupin先生に感謝しています。

ところで、患者さんに向かって「精神障害者」とはあまりにもひどい一言ですね。同じ職として恥ずかしい・・・。医師の薬物療法の妨げになる可能性大で、あってはならないことと思います。

■すごく参考になりました

「アスペルガーの人の恨みは海より深い」の記事と併せ読みました。アスペルガーの正体が少しつかめた気がします。教え子にいるんですが、接し方が難しいっす。

■不愉快だ。

アスペルガー症候群の子供とともに苦労して生きる親として、非常に不愉快です。

彼らの困難を理解したうえでの文章だと思いますが・・・あまりにも緊張感がなさすぎます。

■アスペルガーと統合失調症

今回の記事を読んでみて、アスペルガーは失言を誘うでしたっけ?よーくわかるんですよ。
私、デイケアに通ってるんですが同じ質問を違う人に何回もして、挙句の果てに同じ質問を数日経ってから繰り返し質問をし看護婦さんたちに嫌がられた経験がありますよ。
話も一方的だし、嫌ですよね。
私はアスペルガーですけど、統合失調症とアスペルガー誤診する場合があるって聞いてビックリ。
やっぱそうなの???って感じです。
私は、アスペルガーと同時に統合失調症でもあるから。。。
でも、今自立支援法の区分の仕方で統合失調症だと支援が受けれてるけど。
それは、メリットかも知れないし。
障害年金って統合失調症なら必ずもらえるものなんですか?やっぱり、症状によって差があるんじゃないですか。
軽いと障害年金ももらえないと私は思ってるんですがどうなのでしょうかね?

■>>才蔵

彼女は相当に怒っていました。

■>>あおい

そういう症状はわりあい緩和しそうに思うのですが。

■>>kaorin10

そういう人はデプロメールが合いそうなのですが、少なくとも他のSSRIよりは。何か微妙に煽っているのかもしれないです。

■>>緑 じょん

長くなるので、エントリとして取り上げました。

■>>ぼる

応援していただきありがとうございます。アスペルガーと診断したことがない精神科医は僕の友人ではかなりいます。それが普通だと思う。僕は異端です。

治療ですが、あまりわかっていないわりに結果オーライというのが多いと思っています。

■>>他山の石

調剤薬局は必ずしもその患者さんが自分のところに来てもらわなくても良いので、そういう失言が出やすいのではないかと思いました。

他の似たような暴言で「あなたの家からこの薬局まで何軒もあるのに、なぜここに来るんだ」というのもあります。これなんか、まさにその感情を表している。

■>>ヒミツ

接し方ですが、最初に対応に気をつけて信頼されるとけっこう経過が良いような感じもしています。

■>>理紗

アスペルガーと同時に統合失調症ってことがありえるんでしょうか?ずっと疑問に思っていることです。

なお、知的発達障害に統合失調症が合併することはありえます。ほぼありえないという過激な意見もありますが。僕はこの点から、あるかもしれないと思っています。

■どれも…

高機能自閉症、アスペルガーは自閉症であって、本来なら養護学校や心身障害者コロニーに保護されないと生活できないような人ですよね。
…恨み深い、とか全部違うと思います。
知的障害や精神沈滞でしょう?なんかおかしくないですか?

■>>ゆき

たしかにそういう人たちもいるのですが、例えば旧帝大を卒業し入社して破綻するとか(うつ状態だとか強迫性障害)、一見、普通の人と変わらない人たちもアスペルガー症候群としているのです。もちろんそういう診断をしない精神科医もいますが、このブログではむしろ社会適応が比較的良い人たちの心の内面のことを多くアップしています。

■>>ゆき

障害者だって認められて養護学校や施設に入れれば苦労しないし
中途半端だから手帳も貰えなくて自立支援も受けられなくて
定型なんて死んでしまえ

■無題

>>彼女は薬剤師から「あなたは精神障害者でしょうが!」と言い放たれたらしい。これは想像するとちょっとウケル(柳原可奈子風に)。

↑どこがおもしろいのか理解できないのですが。

これでウケテル、医者を想像すると不気味だ。

頭は良くても精神年齢は低いようで。

■一部だけを取り出して批判するのは

 御指摘の部分はたしかに不適切だと思いますよ。
 しかし文章全体の論旨をことさらに無視してここだ
け取り上げて鬼の首でも取ったようなおっしゃり方を
なさるのはどんなもんですかなあ。ここは精神科医
の率直な声が聞ける貴重な場ですからねえ。ことば狩りによって萎縮されるようなことがあると困るんで
すよ。

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