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沈黙を破る―元イスラエル軍将兵が語る“占領” [著]土井敏邦

[掲載]2008年7月13日

  • [評者]南塚信吾(法政大学教授・国際関係史)

■占領地での不正の現実が明らかに

 パレスチナ問題を考えるとき、われわれは、パレスチナ人をテロリストと言って攻撃しヨルダン川西側を「占領」する一枚岩のイスラエルをイメージする。イスラエルの政府も軍も社会も一体となっているのだと。だが、最近イスラエルとパレスチナの関係に心を痛ませるイスラエル国民の声が少しずつ漏れ聞こえてきている。その多くは過去にアラブ人と平和に暮らしたことのある年配のユダヤ人のものであったが、若者の間にも危機感が芽生えつつある。

 本書は、「占領地」において兵役についていた20歳代の若い元将兵たちが作ったグループ「沈黙を破る」の出した証言集にある発言と、著者のインタビューとからなる。

 非武装のパレスチナ人を理由もなく射殺する、少女を撃ち殺す、道路は危険なので壁を破って家から家へと進撃するといった非道、しかも指揮官の明確な指令もなく行われる暴力、これが占領地での現実だという。しかし、そういう占領軍の不正は、将兵自身が認めたがらないし、将兵の親たちも自分の息子たちがそういうことをするとは信じたがらない。パレスチナ社会もそうである。

 しかし、理由のない占領と占領地での不正にいたたまれなくなる将兵もいる。このままでは自分は人格的に破滅してしまうと。さらに、こういう不正を認めないイスラエル社会も不健全になっていくと。こういう危機感から、将兵が語り始めたのだ。このグループは2004年に写真展を開き、その後も元将兵への聞き取りを通して、メンバーを増やしている。

 われわれは政府や軍の動きだけでなく、こうした民衆の動きも見つめていかねばならない。ほかにも同様に占領側の不正を告発する親の組織もあるという。パレスチナ側についても同じように見たい。双方での同じような転換が、新しい道を開けないか。

 こういう「加害者」の自己転換的な反省は、われわれにあっても、無縁なことではない、そこに日本人がこの問題に取り組む意味もあるのだという著者の心情に共感できる。

    ◇

 どい・としくに 53年生まれ。フリージャーナリスト。『占領と民衆』など。

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