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【主張】一斉休漁 構造問題解決へのバネに
漁船の燃料費高騰に漁業者から悲鳴が上がっている。15日には全国のほぼ全漁船に当たる20万隻が一斉休漁し、窮状を訴えた。昨年比で倍、5年前に比べると3倍もの上昇は確かに深刻だ。
全国漁業協同組合連合会(全漁連)の試算だと、このままの高騰が続いた場合、漁業就業者の4割近い約8万5000人が廃業に追い込まれるという。
だが、一斉休漁は抜本的な解決策にならないばかりか、長期的には消費者の魚ばなれがさらに加速するだけだろう。事実、今回の休漁でも魚価は一時的に上昇はしたものの、漁業者の収入増には結びついていないのが実情だ。
全漁連などは、コスト上昇に見合う魚価対策などとあわせ、政府による直接補填(ほてん)も求めている。
しかし、これにはさすがの農林水産省も及び腰だ。原油高騰で苦しんでいるのは漁業者だけではないからである。漁船用燃油のA重油は、すでに減免税措置があるだけになおさらだろう。
漁業は総コストに占める燃料費比率が3割超と他産業に比べ大きいのは確かだが、いまだ一匹狼(おおかみ)的な古くて非効率的経営が続いていることも、原油高に振り回されやすい体質となっている。こうした構造的問題の解決こそ先決だ。
漁業者間の話し合いによる計画操業などは、もっと進められてよい。個々の漁業者がわれ先にと争って同一漁場に群がる現状では、互いの足を引っ張るだけだ。魚価の安定にならぬばかりか、乱獲による資源枯渇にもつながる。
省エネ対策も急務だ。底引き網漁船では1ノットの減速で最大3割の燃費節減が可能という。イカ釣り船では集魚灯の光源を省電力型の発光ダイオードに変える工夫も始まっている。
政府もこうした先進的取り組みを行う経営体には積極的な支援を惜しむべきではなかろう。
水揚げから店頭まで4段階の仲買卸業者が介在するという独特な流通システムも見直せないか。地元の魚は地元で消費する「地産地消」の推進も流通コスト削減の上で重要だ。
途上国の人口増、先進国で高まる健康志向などを背景に、魚の消費量は世界的に増えている。いくらでも安い魚を輸入できた時代は終わった。それも国内漁業には追い風だろう。危機を嘆くのではなく、再生に向けたバネとする知恵と努力が求められている。