欧米間で巨大なビール会社同士の再編が実現する。「バドワイザー」のブランドで知られる米アンハイザー・ブッシュが、ベルギー大手インベブの買収提案を受け入れた。買収総額は約5兆5000億円で、米企業が外国企業に買収される案件では、今年最も大きな規模になる。
注目すべきは、敵対的だった買収交渉が一転して合意に達したことだろう。アンハイザーは当初、買収提案を拒否していたが、インベブが買収額を引き上げると方針を変えた。両社が株主の利益を重視し、妥協した形だ。
日本では、経営者が敵対的な買収提案を頭から拒絶する傾向が強く、具体的な買収条件の交渉に至らないことが多い。実際、大型の敵対的買収の成立例はまだない。
敵対的買収には買収先企業の従業員が動揺するなどのリスクが伴う。だが能力の低い経営者を交代させて企業業績を高め、産業再編を促す可能性を軽視すべきではない。敵対的買収が起こる可能性があることで、経営者が危機感を抱き、一段と業績向上に努力する効果もあろう。
株価を一株当たり純資産で割ったPBR(株価純資産倍率)をみると、最近は東証一部上場企業のうち、ほぼ半数が1倍を下回っている。PBRの1倍割れは理論上、その企業を買収して解散させれば買収者が利益を得られることを示す。経営者が会社の資産を有効に活用できていないという、株式市場の評価だ。PBRの1倍割れが長引いても安穏としている経営者には、もっと敵対的買収への緊張感が必要だろう。
世界的な株式市場の低迷で、投資ファンドの運用成績は悪化している。Jパワー(電源開発)株の買い増しを断念した英ファンドも、6月に1000億円強の運用損失を出したと英紙に報じられた。日本企業に対する欧米系ファンドの資金流入は細る可能性が大きい。
今後は業績好調な新興国の事業会社が、日本企業の買収を積極化するかもしれない。ファンドも含め、買収者の提案が常に正しいとは限らないが、経営者は株主全体の利益を代表する立場を忘れずに交渉すべきだ。大事なのは企業の長期的な発展につながるかどうかである。