新潟県中越沖地震から1年。東京電力柏崎刈羽原子力発電所の被災をきっかけにした既存原発の耐震不安はまだくすぶり続けている。政府、電力会社は耐震強化に動き出しているが、歩みはのろい。低炭素社会に向けて原発の重要性は増す。耐震不安を早くぬぐい去り、原発の信頼性を高めねばならない。
柏崎原発では復旧作業が続いている。東電は火災のあった変圧器を撤去、比較的揺れの小さかった7号機を優先して復旧を急いでいる。敷地内や周辺の活断層も調査し、中越沖地震のマグニチュード(M)6.8をはるかに超えるM8.1を想定して耐震補強する考えも示している。
各原発でも耐震性の再点検は進んでいる。電力各社は原子力安全委員会が一昨年に改定した耐震指針に沿って活断層を調査し、耐震性を評価し直している。結果は経済産業省の原子力安全・保安院に中間報告の形で提出し、審査待ちの状態だ。
ただ、問題なのは改定された耐震指針の妥当性が判然としないことだ。一部専門家には中越沖地震を踏まえ指針を見直すべきだとの指摘があるが、安全委の姿勢はあいまいだ。検討組織は昨年末にようやく発足させたが、指針の検証や議論は先送りしている。
指針を再改定するなら、耐震性の点検も再度必要になる。だから判断は急ぐ必要があるのに悠長すぎないか。安全委は各社の耐震点検の結果が出た後に活断層評価の手引を示すなど、ちぐはぐな対応も目立つ。
中越沖地震は電力会社が断層を過小評価しがちで安全審査でも見逃してしまう現実を明らかにした。原発の耐震性評価の信頼性を上げるには、安全審査のあり方も変えなければならない。改善策は急務だ。
原発は二酸化炭素の排出量が少なく、地球温暖化防止につながるエネルギー源だ。主要国首脳会議(洞爺湖サミット)でも脱原発政策をとるドイツへ配慮しながら、首脳宣言で温暖化ガスの排出削減に不可欠な手段であると言及している。
日本が排出削減を進めるには原発の立地促進や稼働率向上が欠かせない。保安院は原発の定期検査の間隔を現行の13カ月から最大2年にして稼働率向上につなげようとしている。50―60%台に低迷する稼働率は改善すべきだが、地震頻発を見れば盤石な地震対策が先決だろう。
柏崎原発の7基は今夏も止まったままだ。夏の電力供給ピンチは消費者に省エネの徹底をしてもらうしかない。地震に強く安心な原発ができれば協力に報いることができよう。