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社説:09年度予算 埋蔵金頼みは思考停止だ

 北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)が終わり、福田康夫内閣として初めてとなる概算要求基準(シーリング)作りが本格化している。09年度は国、地方ともに税収の伸び悩みは避けられない情勢だ。それにもかかわらず、与党内からの歳出圧力は高まっている。

 6月末閣議決定された「経済財政改革の基本方針2008」(「骨太の方針08」)は、最大限の歳出削減を求めている。そのため、政府の仕事の棚卸しや「ムダ・ゼロ」の断行を提言している。その一方で、社会保障などの分野では歳出改革による財源では対応しきれないことも認めている。

 原則一律削減を基本とするシーリングは見直しが必要な時期にきているということだ。政府は医師不足対策などのため「特別要望枠」を拡充する方向だが、これもシーリングに無理が生じている表れだ。

 ただ、シーリングの全面見直しはすぐには難しい。

 では、09年度予算編成でやっておかなければならないことは何か。財政健全化を着実に進めると同時に、社会サービスを円滑に供給する財政の機能回復を図るため、安定的な財源を確保する歳入改革である。

 ところが、与党、野党を問わず、増税には後ろ向きの雰囲気が強まっている。それに代わって、「埋蔵金」といわれる特別会計の積立金や剰余金の活用や、政府資産の売却で財源を捻出(ねんしゅつ)することに再び目が向いている。これは思考停止であり、幻想である。

 第一に、基礎年金や医療、育児などの社会保障に充当する財源が一時的では制度の趣旨にそぐわない。特別会計の積立金や準備金には、過大な水準に達しているものもあるが、一度使えば、しばらくの間、使うことはできない。こうした財源は国債の残高を減らす消却など財政健全化に使うのが基本だ。

 特別会計のほかにも、独立行政法人、公益法人などの見直しは厳格に行うべきだ。その結果として生まれる財源も、基本的には累増した国債の圧縮に振り向けるべきだ。

 第二に、政府保有資産の売却に過度に頼ることはリスクが大き過ぎる。成長重視派が注目しているのは日本郵政やゆうちょ銀行、日本政策投資銀行などの民営化に伴う株式売却益だ。

 民営化会社の経営が順調に推移し、株式市場も上向いていれば、政府に入る売却益も多額に上る。しかし、NTTやJR各社でもあったように、規模の大きい売り出しは、当初の日程や見込み通りに進むとは限らない。

 無駄の洗い出しも重要だが、それにより財政再建や社会保障に必要な財源を、相当程度まかなうことが可能とは思えない。

 厳しい現実を直視し、まっとうな政策を取っていく。この財政の正道を改めて、認識すべきだ。

毎日新聞 2008年7月17日 東京朝刊

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