これで収束に向かうのだろうか。米低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題に起因する金融不安の再燃を受けて、ポールソン財務長官が緊急対策を発表した。税金投入による金融機関救済も視野に入れた踏み込んだ内容だったが、市場が安定を取り戻したのは、ほんの一瞬だった。
今回、米政府が救済に乗り出したのは、住宅金融専門の連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)だ。全米の住宅ローン債権の約半分を2社で保有ないし保証している超大型の金融機関である。住宅価格の下落続きで2社の不良債権は拡大し、損失処理に伴う資本不足に市場の関心が集中したことから先週、株価が急落した。放置すれば、週明けに予定されたフレディの債券発行に支障をきたす懸念が強まり、財務長官は日曜日の緊急発表に追い込まれた。
事態を深刻にしているのは、2社が発行した多額の債券の多くを、国外の金融機関が保有していることだ。債券の信用が揺らげば、ドルの暴落を招く危険がある。対策の遅れや失敗は世界経済を道連れにする。
緊急対策発表を受けて、資金繰り不安はひとまず和らいだ。だが「その先」の展望が具体的に見えないことから、2社の株価は再び急落した。ドルも対ユーロで最安値を更新するなど、政府の狙いとは逆に市場の動揺は続いている。
そんな中、今度は米証券取引委員会(SEC)が、所有していない株式の売り注文を出す「空売り」について、規制の強化を打ち出した。「一時的な措置」として、ファニー、フレディを含む大手金融機関を対象に、近く実施する。とにかく市場の動揺を抑えたい当局の焦りがうかがえる。
だが、「ファニー・フレディ問題」の根底にあるのは2社の特殊な顔だ。官でもなく、民でもない。国民の住宅取得を支援する目的で作られた経緯から、2社が発行する債券には暗黙の政府保証が付いていると信じられてきた。半面、取引所に上場された株式はすべて民間の投資家が保有する。政府の信用力を盾に株主も経営者も、通常の民間金融機関にない恩恵を得てきた。一方でリスク管理は甘く、規制も緩かったため、資本に対して大きすぎる資産を抱え込んだ。
この深層にメスを入れることなく、資本だけ増強しようとしても解決にはならない。市場の動揺は、救済の具体的内容や救済後の2社の姿を示さない政府への警告といえよう。小手先の対応で警告を封じ込めても限界が来る。
国民に負担を強いる対策をとれば、これまでの無策への批判が噴出するだろう。だが、先送りは許されない。目先の政治的配慮にとらわれることなく、市場の声に背かず、抜本策を迅速に実行してほしい。
毎日新聞 2008年7月17日 東京朝刊