◆毎日新聞元論説委員 北村龍行
◇優越的地位を乱用…って?
家電というのは、テレビや洗濯機、冷蔵庫のように、家の中で使う電気の機械のことだ。みんなのまわりにも「ヤマダ電機」があるだろうか。日本で一番大きな家電販売会社だ。そのヤマダ電機が、公正取引委員会という役所から「優越的地位の乱用」をやめるように命令された。
「優越的地位」というのは、相手がさからうことができないほど強い立場、という意味だ。乱用というのは、決まりなど無視して自分勝手に使うという意味だ。だから「優越的地位の乱用」というのは「相手がさからえないほど強い立場をつかって、相手を自分勝手に使う」という意味になる。公正取引委員会は、そういうことはやめなさいと命令した。
ヤマダ電機は、ヤマダ電機に家電を買ってもらっている会社に、家電を売るのを手伝ってくれる人をヤマダ電機の店に出すようにたのんだ。たのまれた会社は、断るとヤマダ電機が家電を買ってくれなくなるのではないかと心配して、人を出した。ヤマダ電機はそういう人たちにお金を払わなかった。そのことを、公正取引委員会は「優越的地位の乱用」と考えたわけだ。
独占禁止法という法律は、いろいろな取引をしている会社と会社は、対等でなければならないと決めている。でも、みんなも買い物をしているからわかるだろう。実際には、売る人より買う人のほうが強い。売る人は買ってもらわなければならないけれど、買う人は別の店で買ってもいいからだ。ヤマダ電機は、この買う人の強みで、買ってもらう会社の社員をただで働かせたということになる。
でも、実は同じことは大きな家電販売会社ではどこでもやっている。公正取引委員会は、ほかの会社にも、そういうことをやめるように命令しなければおかしい。
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長野支局、東京本社経済部を経て、週刊エコノミスト編集部で17年間働いた。2000年から論説委員。著書に「借金棒引きの経済学」(集英社新書)など。横浜国立大卒。