米オハイオ州シンシナティ(AP) 米国でサービス業従事者に支払われるチップの額が減る傾向にあり、各地でウエイターやタクシー運転手、美容師らが悲鳴を上げている。景気の減速やガソリン価格高騰などを背景に、消費者の財布のひもが固くなっているようだ。
当地でパブのバーテンダーとして働く女性、メリッサ・メッツさんの場合、収入の半分以上を占めるチップが、過去数カ月の間に約4分の3に落ち込んだ。「以前ほど来なくなったお客もいるし、来店しても、普段なら5ドル置いて行くところを2ドルに抑えるといったケースが多い」と、メッツさんはため息をつく。
米内国歳入庁(IRS)や国勢調査局、労働統計局などに申告される所得では賃金とチップが分類されていないため、チップ収入の減少を正確に把握するのは難しい。ただ、州レベルではすでにこの傾向を受けた動きが見られる。たとえば、デラウェア州上院では今月、チップを収入源とするサービス業従事者らの最低賃金を引き上げる法案が可決された。
ケンタッキー州コビングトンにあるレストランのウエートレス、ジュエル・カンディフさんにとっては、収入の4分の3がチップ。ところが、「これまではチップとして飲食代の20%前後をもらっていたが、最近は15%以下ということが多い」という。
一方、同州クレセントスプリングズの美容院では、1回当たりのチップの額に目立った変化はみられないものの、「4週間に一度髪を切っていたお客が、6週間に一度しか来店しなくなった」(店長)などの影響を受けている。それぞれの来店回数が少なくなれば、当然チップ収入も減ることになる。
当地のタクシー運転手、ダウィト・メドヘンさんにも話を聞いてみた。通常、収入の中でチップが占める割合は2割足らずだが、これまではそれをガソリン代に回していたという。ところが、ガソリンの価格は昨年から比べると約3倍に上昇。一方で、チップを以前の半分程度に抑えたり、まったく渡さなかったりする乗客が目立つ。タクシー利用者自体の減少も加わり、生活は苦しくなる一方だ。
バーテンダーやウエートレスの多くは、勤務時間の延長という形で埋め合わせを図っている。メッツさんは「週40時間だった勤務を、50時間に増やしました。収入を維持する道はほかにないでしょう」と、あきらめ顔で語った。