- HOME
- >> セーフティー・ジャパン
- >> インタビュー
サイバード・スペースのデザインがもたらす安全と安心
2015年には、『空間知能化』が実用段階に!?
慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 助教授 建築家 渡辺朗子 氏
技術の発展は、建築物や空間に対して物理的な変化だけでなく、場に対する概念の変化ももたらす。“情報”という新たな技術を手に入れたことで、建築物や空間はこれからどのように変化していくのだろうか。今回は、情報と建築空間をテーマに研究を行っている慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科助教授で建築家の渡邊朗子氏に話を聞いた。
文/林愛子、写真/渡徳博
2006年3月1日
新たな技術が空間と人々に与える影響
――情報環境というと、パソコンや通信の環境設定を指すこともあり、非常に幅広い意味で使われています。
慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 助教授
建築家 渡邊朗子氏
渡邊:
情報環境の中でも、建築空間が私の専門です。現在の住居やオフィスを見ても、工業技術の進化が建築に大きな変化をもたらしたことは想像に難くないでしょう。そこに新たに情報技術が加わることで生活がどうリーディングされ、どのような空間が生まれるのか――これをテーマとして、サイバースペースを装着した空間、すなわち「サイバード・スペース」の研究とデザインを私は行っています。
私が所属する慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスは、日本で最初に立ち上げられたインターネットの拠点であり、ある意味、日本の情報化社会をリードしたキャンパスでした。そこで繰り広げられる空間は、新しい空間であると直感し、1990年代にはコンピュータがずらりと並んだメディアセンターで、学生たちにどのような変化が起こるのか調査を行ってきました。当初は通信で情報を授受できれば学生が学校に来なくなる、という見解もありましたが、実際にはその逆でした。学生たちはメディアセンターに集まり、コンピュータを使って情報に触れつつも、フェース・トゥー・フェースのコミュニケーションを繰り広げていたのです。
――新たなコミュニケーションスタイルの誕生と解釈してよいのでしょうか。
渡邊:
IT技術によって建築物の形状が劇的に変化したわけではありませんが、空間に対する感覚や概念は変化しつつあると思います。その一つが、家でもオフィスでもない中間的な場所を指す、『サードプレイス』という概念です。サードプレイスはコミュニティによってつながるもの。言葉自体は1980年代からありますが、コミュニティを結ぶのに最適なインターネットが浸透したことで、意味合いが変化してきました。2チャンネルの『電車男』はその象徴。バーチャルなサードプレイス内でのコミュニケーションだったといえます。
『東京21Cクラブ』
サードプレイスはバーチャルでもリアルでも構いません。バーチャルなものでもアンカーとなる場があると、コミュニケーションはまったく変わってきます。たとえば、私が立ち上げから携わっている会員制ビジネスクラブ『東京21Cクラブ』は、丸ビル内に通信環境を整えた専用の施設を持っています。
施設に集まったメンバーは、企業や業界の垣根を越えて新たなビジネスを創出したり、「そのビジネスならあの人にも声をかけよう」とメールを送信したり、フェース・トゥー・フェースとバーチャルの2つのコミュニケーションを使い分けています。このようにバーチャルが大きく関わっている点が、他のビジネスクラブと違うところだといえるでしょう。
この連載のバックナンバー
- H5N1型という“敵”に日本が採るべき策 (2008/05/16)
- 新型インフルエンザの“リアル”を語ろう (2008/03/28)
- 家庭の教育力が、子どものインターネットとの付き合い方を左右する (2007/05/29)
- 子どものネット活用能力を伸ばせば、可能性は大きく広がる (2007/05/23)
- 犯罪の“黒船”が来た!(3) (2007/05/16)