発表資料:2008年4月16日 ←目次に戻る
小学校の口腔衛生指導の現場で、高学年児童の初期むし歯の実態を調査
■初期むし歯を視覚的に定量化できるシステムを開発
■約2割の児童に初期むし歯あり
■口腔衛生指導とフッ素入り歯磨剤の使用が初期むし歯の進行を抑え、むし歯を
  予防できることを確認


 花王株式会社(社長・尾崎元規)ヒューマンヘルスケア研究センターは、岡山大学歯学部・下野勉教授と共同で、小学校高学年の児童を対象に初期むし歯の実態調査と対策について研究を行いました。


■研究背景
 初期むし歯とは、むし歯の原因となる細菌がつくる酸により、歯の表面のエナメル質からカルシウムやリン酸が抜けて(脱灰)密度が低くなり白く見える状態で、むし歯になる一歩手前のものです。生えたての永久歯は歯の質が弱く、むし歯になりやすい状態にあります。そのため、初期むし歯のような早い段階での発見と正しい歯磨き指導や再石灰化を促すフッ素の応用などの対応が大切ですが、永久歯が生え揃って完成されてくる小学校高学年は特に注意が必要と考えられます。そこで今回その実態調査を行いました。


初期むし歯(白くなっているところ)
穴はあいてないが歯の成分(ミネラル=カルシウムやリン酸)が溶け出し、表面からわずかに内側の密度が低くなった、穴があく一歩手前の状態。ケアすれば健康な歯に修復する可能性があります。


■研究結果
 本研究では、まず小学校の口腔衛生指導の現場で初期むし歯を正確に評価するため、持ち運び可能な小型の口腔内撮影用機器を用いて画像解析するシステムを開発し、前歯で評価しました。そして小学4~6年生354名の児童を調べたところ、そのうち16%の55名の前歯に初期むし歯が見られました。
 またこうした初期むし歯をもつ児童に対して口腔衛生指導を行うと同時に、フッ素入り歯磨剤を供与して約5ヶ月間使用してもらった結果、継続して口腔衛生指導に参加した35名の前歯(永久歯・103本)のうち66%の歯で初期むし歯が減少し、初期むし歯の面積は33%の減少が認められました。
 従来からむし歯予防に有効なフッ素入り歯磨剤が市販されてきましたが、実際の使用に関しては、正しい使い方がなされなければ効果は半減してしまいます。今回あらためて、永久歯が生えそろって完成されてくる小学校高学年において、初期むし歯の進行を抑制してむし歯を予防するためには、正しい歯磨き指導とフッ素入り歯磨剤の使用が効果的であることが確認されました。(研究の詳細は1~3参照)
 本研究結果は、第45回日本小児歯科学会大会(2007年7月19日,東京)で発表し、小児歯科学雑誌46巻1号(2008年3月25日発行)に論文掲載されました。

1.持ち運び可能な小型の口腔内撮影用機器を用いた初期むし歯評価システムを開発
 調査にあたり、小学校の口腔衛生指導現場で手軽に初期むし歯の大きさを測定するため、小型で持ち運びやすい評価システムを開発しました。
 まず口腔内撮影用デジタルカメラで、歯の表面からの反射光を除去した画像を撮影しました。画像は画像処理ソフトで赤、緑、青(RGB)の光に分離して、各光成分の画像を得ました。そのうちB(青)画像はもっとも波長が短い部分であるため、散乱の多く生じる脱灰部位と散乱の少ない健常部位が明確に判別できるので、B(青)画像を用いて定量しました。
 以上の2つの技術開発により、表面反射によって識別が困難だった初期むし歯を、容易かつ正確に判定し定量化することが可能となりました。

2.約2割の児童に初期むし歯があり、その9割は前歯の中心から左右1、2本に集中
 小学4年、5年、6年の児童354名の前歯を調査対象としました。初期むし歯評価システムにより、そのうち16%の55名の前歯に初期むし歯が見られました。
 また、初期むし歯が認められた歯の位置(歯種)は、60%が上の前歯の中心から左右1本目(中切歯)、35%が上の前歯の左右2本目(側切歯)で、上の前歯の中心付近に初期むし歯が発生しやすいことが分かりました。上の前歯がむし歯になりやすいのは、唾液腺開口部から遠く、唾液の自浄作用が働きにくいことから歯垢がつきやすいためと考えられます。

3.口腔衛生指導とフッ素入り歯磨剤使用が初期むし歯の進行を抑えてむし歯を予防できることを確認
 初回の口腔衛生指導時に前歯(永久歯)に初期むし歯をもっていた児童には、正しい歯の磨き方などの口腔衛生指導を行い、フッ素入り歯磨剤を供与して使ってもらうことにしました。そしてフッ素入り歯磨剤を供与して約2ヵ月後と約5ヵ月後に、初回と同様に口腔衛生指導を行うと同時に写真撮影を行って、継続して参加できた児童35名(103本)の初期むし歯の状態を解析しました。
 その結果、35名の前歯(永久歯・103本)のうち66%の歯で初期むし歯が減少しました。また、初回の口腔衛生指導時に1歯あたりの初期むし歯の大きさ(脱灰部分の面積)が平均9.4mm2だったものが、約2ヵ月後では7.5mm2、約5ヵ月後では6.3mm2(初回に比べ33%減少)と、時間の経過とともに面積が低下しました。また学年別で面積を比較したところ、約2ヵ月後と約5ヵ月後では、4年生のみに有意な差が認められましたが、初回の口腔衛生指導時と約5ヵ月後ではすべての学年で有意な差が認められました。

 以上の結果から、初期むし歯においては、永久歯が生え揃う小学校高学年の早い段階で正しい口腔衛生を身につけることと、フッ素入り歯磨剤を使用することによって、その進行を防ぎ、むし歯を予防できることを確認しました。


参考
 人間の歯は、一番外側をエナメル質が覆い、その内側にセメント質、象牙質があり、歯ぐきによって支えられています。また口の中は、唾液によって常に湿潤な状態が保たれ、細菌がすみやすい条件がそろっています。こうした状態にある歯は、唾液に含まれる糖タンパク質がつくる数ミクロンの薄い膜で常に覆われていますが、細菌の中には、ここに付着して食べ物の中の糖分を栄養にして、歯の表面にネバネバした物質をつくるものが存在します。これが歯垢(プラーク)で、この中の細菌は、食べ物の糖質を材料に酸をつくるため、エナメル質が溶かされます。これが脱灰と呼ばれる現象で、これをそのまま放っておくとむし歯の原因となります。
エナメル質に穴があいてしまうと治療するしかないのがむし歯ですが、昨今ではエナメル質の脱灰部位が白斑として認められる初期むし歯も要観察歯として検出する方向になってきています。これはより早い段階での発見が、健康な歯への修復を可能にすると考えられているためです。
 脱灰はエナメル質のカルシウムとリン酸が溶け出すことで起こりますが、通常では唾液によって再石灰化されます。ただし口中が酸性に偏っていると再石灰化は望めません。ところがフッ素は、こうした中でも脱灰を抑えて、再石灰化を促進させる働きがあるため、初期むし歯のケアに効果的とされています。


■調査の方法
調査時期2006年4月~10月
調査対象者兵庫県内の小学校の4年、5年、6年の児童354名。
児童に口腔指導とフッ素入り歯磨剤供与。
調査方法前歯の歯垢を除去したあとに、偏光フィルタつきデジタルカメラにて撮影。

他の実施内容と経緯は以下のとおり。






お問い合わせ
花王株式会社 広報部
電話 03-3660-7041~7042

※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。

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