先週金曜日、話題のiPhoneが発売。よくもここまでと変に関心するほど大きな話題になっているが、筆者も1台iPhone 3Gの16GB(白)を入手した。いわゆる日本のケータイ文化におけるiPhoneの記事は、筆者には全く求められていないと思うので、ここではPC環境と共に使う、情報端末としてのiPhoneのレビューを今回のテーマとした。 ●iPhone発売イベントに苦言 と、その前にiPhone発売における販売面の混乱について、簡単に私見を述べることにしたい。
筆者はiPhone入手のための騒ぎをもちろん知っていたので、騒ぎが落ち着いた頃に入手できればいいと考えていた。筆者の普段の仕事スタイルからすると、近距離の新幹線チケットを予約、購入してFeliCaでそのまま新幹線ホームに入れるおサイフケータイは外せない。だから現在使っているP905iの契約内容を変更し、iPhoneはプラスαの端末として買おうと思っていたからだ。 そして、近所の家電量販店に昼前(11時ごろ)に様子を見に行くと、16GB(白)の希望者は5人目で、余裕で買えるとのことだった。その日の入荷台数は合計30台ほどだという。その後、どこかから情報を聞き付けたのか次々に契約者がやってきたが、筆者が契約を終えた1時少し前ぐらいまでの間は、購入できなかった人はいなかった。都内住宅地の量販店ということもあり、たまたま穴場だったのだろうが、その後、日曜日になっても入手できない旨をBlogに書いている人たちの叫びやソフトバンクショップ原宿にひたすら並んだ様子を知るにつれ、もう少し公平な分配は出来なかったのかと思う。 携帯電話は単にパッケージを引き渡すだけでは使えない。特にiPhoneは携帯電話というよりも、携帯電話機能を持った小型コンピュータといった商品であり、契約前には非常に多くの確認項目にチェックとサインを求められた。登録端末のジニーへと直接サインをする必要もあるし、アクティベートの手間もある(一部、希望者には自分でアクティベートすることも許可したようだが)。いずれにしろ、1日に1店舗が処理できる契約数には限界がある。 各店舗でどのぐらいの数を処理できるのか、事前にシミュレーションしながら、ソフトバンクは把握していたのではないだろうか。当然、店の前に並んでいたとしても、後ろの方の人は夜中にならないと契約できないということも、予想できていただろう。 ならば事前にインターネットで予約を取った上で、おおよその来店時間と販売できる店の分配を発売最初の週末だけはソフトバンク側で管理するといったこともできたのではというのは、事後だから言える戯言だろうか? わざわざ他店の契約開始時間を12時以降に設定し、予約を一切受け付けずに原宿店に人を並ばせることで話題作りをしようとしたのだろうが、とても賛成できるやり方ではない。発売時間が来たら次々に会計処理を行なって手渡しできる商品じゃないのだから、意図的に並ばせるようなやり方で携帯電話を販売するのはやめて欲しい。 ●最高と最低の同時体験 iPhoneの基本的な操作性や機能については、本誌の読者ならよくご存知のことだろう。高解像度の液晶パネルとマルチタッチセンサーパネルを使ったiPhoneの特徴は、シンプルでプログラマブルなハードウェアとして、その中に組み込むソフトウェア技術で差別化を図っている。実際、純粋にハードウェアとしてのみ見た場合のiPhoneは、他の多くの携帯電話よりもメカニカルな面は簡素で、おそらく組み立て工程もシンプルかつ低コストなはずだ。その分、タッチパネルや液晶パネルにコストを配分しているとも言える。 そんなiPhoneの売りはタッチパネルによる流麗なユーザーインターフェイスと、素早い反応、それらトータルの体験レベルが高いことなどだろう。iPhoneの素晴らしい面は、筆者が書き連ねなくともたくさんの人たちが紹介している。 しかし、そうした体験レベルの高さと同時に、購入したユーザーは驚くほど不親切な体験も同時にするはずだ。加えて言うと、日本語版に関しては「素早い反応」という部分にも、大きな疑問符が付く。 たとえばiPhoneをアクティベートするとソフトバンクモバイルから3通のSMSが届く。筆者が受け取った際には、すでに受信された状態だった。このメッセージの中には、iPhone向け専用のソフトバンクモバイルが提供するメールアドレスの設定と、My Softbankへとログインするパスワードが書かれている。従って、最初にやる作業がこれらの設定なのだが、とてもユーザーフレンドリーとは言えない。 まずiPhone向けのSMSはメッセージをすべてサーバ側で持っているようで(しかも端末内にも保存されないようだ)、SMSアプリケーションを起動すると必ず6〜7秒ほど待たされる。その上、メッセージを表示する際にも、長い場合は5秒ほど時間がかかった。何度やっても同様なので、端末にはキャッシュを持っていないのだろう。 さらに、ランダムに生成された無意味な3つの文字列を何かに書き留めておかなければ、My Softbankの利用やメール設定は行なえない。iPhoneがコピー&ペーストが行なえないというのはよく言われることだが、基本的に2つのアプリケーションを同時起動して両画面を切り替えながら作業するといったことができない。iPhoneアプリケーションはホーム画面に戻ると自動的に終了してしまう。 このため、SMSとWebブラウザのSafariを行き来しながら、上記設定を行なうことができないのだ。 iPhoneは高い完成度の操作性を備えるとはいえ、サービス利用開始までのプロセスはキャリアごとに異なる。もっとスマートに設定作業を行なえるようなシカケができなかったものだろうか。ソフトバンクモバイルにも問題はあると思うが、アップルもより簡単に利用をスタートさせる仕組みをOS側で実装すべきだろう。 ●理解しづらいプッシュメールのシカケ ユーザーが次に悩むのは、どのメールシステムを用いるかだ。iPhoneはIMAP4を用いたインターネットメールを利用する仕組みになっているが、IMAP4にはメールを端末に送り込むプッシュの機能がない。 IMAP4で見かけ上、プッシュメールのように見せかけるには、頻繁にメールチェックを行なう必要がある。しかし、頻繁なメールチェックはバッテリ消費を増やしてしまうので、携帯電話では現実的ではない。そこでメールを通知するための仕組みがiPhone向けに開発されている。 この仕組みはメールが到着したことを示すだけで、具体的にはiPhoneのホーム画面上で未読メールの数字がカウントアップされるだけ。どこから届いたどんなタイトルのメールなのかは端末には伝わらない。 しかし到着したという通知だけ受け取れば、あとはメールボックスを開くと即座にメールのリストを更新し、バックグラウンドで本文を読み込み始めるので、3Gネットワークで充分なデータ通信帯域が確保できるならば、実質的にプッシュメールと同様に使える。 アップルが公式に、このiPhone向け「プッシュメール」をサポートしているとアナウンスしているのは、ソフトバンクモバイルのメール(i.softbankメール)、MobileMeのメール、Yahoo! Mailの3つ。最後のYahoo! Mailは日本のYahoo!メールではなく、米国のサービスであることに注意してほしい。 これ以外にもIMAP4を有効にしたGMailなど、IMAP4をサポートするメールサーバならばメールアカウントを登録できる。実際、筆者は普段から利用していた独自ドメインのIMAP4サーバをiPhoneから直接見るようにしている。 もっとも、「公式プッシュメール」である3つのメールサービスにも、細かな振る舞いの違いがあってややこしい。最も大きな違いはi.softbankメールに届くメールだけ、画面上に着信通知がポップアップするという点だ。実はこれ、ソフトバンクモバイルオリジナルの機能のようで、着信したメールのディテールをSMSを通じてプッシュしているのである(昔、J-Phone時代に同じようなサービスが行なわれていたのを思い出した)。 従ってi.softbankメールを使うのが、もっとも即時性が高いということになるが、このメールアカウントはメッセージの最大保存期間が1カ月しかない。IMAP4はサーバ上のメッセージが消えると端末上からも消えてしまう。メールを長期間保存したいなら、他の2つのサービスから選ぶ方がいい。 ところがMobileMeとYahoo! Mailにも、微妙な振る舞いの違いがある上、前者は大容量だが有償のサービス、後者は無料ながら10MBまでしか保存できないという制限がある(携帯専用メールアドレスと考えれば10MBでも充分かもしれないが)。 振る舞いの違いはメールボックスを開くときの速度とメッセージ受信までの速度感。アップルによると、特殊なプロトコルは使っていないということだが、MobileMeはメールボックスを開くとスグにメールが見える(受信された)状態になっているように感じられる。 じゃあ、もう料金を払ってMobileMeのメールアドレスでいいじゃないか、と思うのだが、全員にそれをお勧めするというのも、PCなどとの情報同期が必要ない人向けにはあまり気が進まない。加えてMobileMeのメールは、自分が送信するメールの返信アドレスを指定できない。 たとえばPCで使っている「sample@impress.co.jp」宛のメールを、すべてiPhone用メールアドレスに転送したとしよう。そこに届いたメールに何か返信を行なう際は、相手がさらに返信をしたときにちゃんと「sample@impress.co.jp」に届いほしい。当然だ。しかしMobileMeから送ったメールに先方が普通に返信すると、その宛先はMobileMeのアドレスとなり、「sample@impress.co.jp」には届かない。 結局、筆者は普段から使っているアドレスへのメールを、すべてi.softbankメールに転送し、PC用に使っているIMAPメールサーバにiPhoneからも直接つなぐことにした。これならSMSでメール着信通知が届くし、容量も気にせず、速度的な問題もなかった。 IMAP4対応のメールサーバを使っていない人は、GMailのアカウントとi.softbankメールに同時に転送しておくといい。 結論としては、各サービスの特徴をきちんと把握していればそれほど複雑なものではないが、こんなことをいちいち考えなくとも、バシッと1つのサービスを選べるようになって欲しいものだ。 ●それでもPCユーザーには嬉しいiPhone 何か文句ばかりを書いているが、ポジティブなレビューはたくさん出ているので、あえて実際に購入して気になったところを書いてみた。実はまだまだ文句が言いたいところはたくさんある。 たとえば日本語のIMに切り替わる際、筆者の端末では15〜20秒ほど待たされる。特にテンキー文字入力の画面が出るまでが遅い。英語仮想キーボードに切り替わる際には待たされないので、単純に日本語IM利用時のパフォーマンスチューニングが行なわれていないだけだろう。 そのうち直るのだろうが、(もし筆者以外のiPhoneも同じ症状なら)現状、使い物になるレベルではないと感じている。予測変換候補の検索時も極端に動作が遅くなることがあった。特にiPod機能で音楽を聴きながら使っている時はとても遅い。 筆者はAppStoreでFacebookのアプリケーションをダウンロードして使っているが、iPhoneからのコメント入力は英語だけにしている。とても日本語で入力する気分にならない(繰り返すが、他のiPhoneもこんなに遅いんだろうか?)。 しかし、それでも筆者はiPhoneを使い続けるだろう。なぜなら、iPhoneは普段使っているパーソナルコンピュータの世界と、もっとも高い親和性を持っていると思うからだ。携帯電話だけで、すべての使い方が完結する、あるいはそうしたいという人は、自己完結型の従来型端末を使う方がいいと思う。 しかし仕事場でも自宅でも、あるいはたまには外出先にもPCを持ち出し、PCの世界に自分が必要な情報を封じ込めてある、といった人にはiPhoneが使いやすい。本来なら、Windows Mobileが同じような役割を果たさなければならないが、Windows Mobileはあまりにパソコン世界に近すぎて、使い方やユーザーインターフェイスの洗練度が低い。Windowsという名前がありながら、フル機能のWindows Vistaとは技術的にも似ていながらも、乖離した部分も多い。 この先、もしかするとMicrosoftがPC向けWindows、Windows Mobile、Windows Liveなどを統合し、新しい使い勝手の良い提案をしてくれるかもしれないが、当面、PCユーザーにとってもっとも使いやすい情報端末はiPhoneであり続けるのではないだろうか。 そのiPhoneは、おそらく当面の間、毎年のように機能アップを図っていくだろう。iPhoneはソフトウェア技術でその価値を創造しているから、新機能の多くは前の世代でも使える。 これは個人的な予想だが、来年発表されるだろうiPhone Software 3.0は、今回のiPhone 3Gでも利用できると思う。しかし、同じOSは初代iPhoneでは使えないのではないだろうか。そして4.0は第2世代iPhoneには適用できず……、といったサイクルを繰り返すことで、2年程度は最新のソフトウェアに更新することで最新端末に近い機能を届け、その後は買い換えてもらうというやり方だ。 このモデルがうまく行けば、他社にはマネのしにくいソフトウェアの基盤を生み出すことができると思う。
□アップルのホームページ (2008年7月16日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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