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【社説】

金融不安 果断な対応が鍵を握る

2008年7月16日

 米国の金融当局が経営不安に直面している住宅金融公社の救済に乗り出した。公的資金の投入など抜本策を発動するには、議会との調整もいる。危機拡大を防ぐには、果断な対応が不可欠だ。

 米国の政府系金融機関である連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)と連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)は先週来、株価が急落し、経営不安が表面化した。

 両社が保証または保有している住宅ローン債権は、合わせて米国市場全体の半分近い五兆ドル強(五百三十兆円強)と日本の国内総生産(GDP)の規模に匹敵している。

 また政府系であることから、両社自身が発行する債券は「暗黙の政府保証」付きとされ、日本を含め世界中の金融機関が安全な投資対象として大量に保有している。万が一、経営が破たんすれば、信用不安が連鎖して世界的な金融危機すら招きかねない。

 日曜日の夕方という異例のタイミングを選んで米財務省が救済策を発表し、連邦準備制度理事会(FRB)とホワイトハウスも協調したのは、金融市場の不安拡大を恐れたためだ。それだけ事態の深刻さを物語っている。

 とはいえ、これまでの対応は、必要があれば財務省が公的資金を投入して両社の資本増強を図ったり、FRBがつなぎ資金として公定歩合で融資する姿勢を示した段階にとどまっている。実際に公的資金を投入するには、議会の同意が必要になる。場合によっては、新法制定も考えられる。

 経営不安は住宅金融公社にとどまらない。ポールソン財務長官は投資銀行の破たんに備え、先に受け皿銀行(ブリッジバンク)創設の構想も明らかにした。ここでも新法制定が不可欠だ。

 納税者意識が高い米国で議会の理解を得るには、事態の正確な情報開示が重要だ。公的資金投入には不良債権がどれほどあるのか、厳格な資産査定が出発点になる。救済する構えを示したからには、金融当局は全力で議会を説得せねばならない。

 日本の金融危機では、公的資金投入が小出しになって、問題解決が長引いた。そんな経験に照らせば、まず不良債権の実態をきちんと把握し、動くときは迅速大胆に動くことが肝心ではないか。

 今回の金融不安はかつての日本よりも規模が大きく、メカニズムもずっと複雑だ。対応も難しいが、世界経済に大きな責任を負う米国の危機管理能力が試される。

 

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