防衛省改革に関する有識者会議(座長・南直哉東京電力顧問)が福田康夫首相に提出した報告書は、実現すれば「文官」優位だった防衛省を変える画期的な提案となる。文官と自衛官を組織内に混在させ、政治家が就く首相や防衛相を補佐する体制を目指す点である。
有識者会議が2007年12月に首相官邸に設置されたきっかけは、守屋武昌前防衛次官の汚職だった。守屋事件以前にも防衛省・自衛隊にはイージス艦情報漏れ事件があり、ことし2月19日にはイージス艦「あたご」が漁船と衝突した。会議は一連の不祥事の原因分析、再発防止策の検討を求められた。
石破茂防衛相は現在の機構のなかに不祥事の原因があるとし、持論に沿った改革を実施したいと考えた。防衛省が5月に有識者会議に提出した改革案は、不祥事よりも組織に焦点を当てた内容となり、私たちは改革案に値しないと受け止めた。
今回の報告書は、一連の不祥事の経過を詳しく記録した。イージス艦情報漏れや「あたご」の衝突などを「事案」とする一方、守屋事件については「前事務次官の背信」との表現で断罪した。規則順守の徹底、職業意識の確立など一般的な再発防止策に加え、防衛調達を透明化するため、会議録の公開を求めた。
機構改革については当初の石破防衛相の提案に比べ、漸進的な手法で回答が示された。
防衛省は本来は、選挙された政治家である首相、防衛相による自衛隊の統制を意味するシビリアンコントロール(文民統制)の意味を誤解してきた。防衛相のスタッフである内局による「文官統制」が現在の実態である。報告書はその象徴だった参事官制度を廃止し、政治任用の防衛相補佐官の設置を求めた。
文官と自衛官の混在による組織の活性化を求めた点も、実現すれば画期的となる。
防衛省の中核組織である内局の防衛政策局には自衛官も登用し、逆に作戦運用に関しては、内局の運用企画局を廃止して統幕長のもとで自衛官が中心となってあたり、そこに文官も加わる形をとる。防衛力整備部門の一元化も同様の混在組織を前提とする。政治家、文官、自衛官がそろって防衛相を補佐する防衛会議の法制化も同じ狙いである。
餅(もち)の絵は描き終えた。食べられる餅にできるかどうかは、政治家たちの責任となる。防衛省自身も、文官と自衛官、そして陸、海、空3自衛隊の間の確執を克服する必要がある。簡単ではない。