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防衛庁が省に昇格してから1年半。25万人の自衛隊員を抱え、4兆8千億円の防衛関連予算を持つこの巨大官庁をどう改革すべきか。有識者会議による報告書が福田首相に提出された。
議論のきっかけとなったのは昨年来相次いだ防衛省と自衛隊の不祥事だ。
守屋武昌前次官と業者の目に余る癒着ぶり、インド洋の海上自衛隊の給油量の隠蔽(いんぺい)問題。相次ぐ情報漏洩(ろうえい)……。検討が始まってからイージス艦「あたご」の漁船との衝突事故も起きた。
こんな組織に国民の安全をほんとうに任せられるのか。改革論議には、不祥事の原因を探り、抜本的な立て直し策を示すことが求められていた。
報告書は、前次官の汚職に関連して、武器購入などの調達プロセスを透明にするよう求めた。責任の所在を明確にするため、会議録をつくる。抜き打ち監察制度を強化する。そんな当然のような項目が並んだ。
だが、組織の規律については、抽象的な指摘が目立つ。「規則遵守(じゅんしゅ)の徹底」や「プロフェッショナリズムの確立」などだ。それをどう具体的に実現するかが今後の課題だ。
今回の報告書には、不祥事への対処を機に、防衛省の組織を大きく変えようという狙いがある。
防衛省は、内局とよばれる文官組織(背広組)が、陸海空の自衛官(制服組)に指示し、管理する仕組みだ。報告書は、両者をもっと対等な立場に置くように求めた。
背広組優位は、旧軍出身の幹部が自衛隊に大量にいた時代には意味を持ったが、時代遅れになった面もある。軍事技術の高度化や米軍との一体化などが進み、制服組の力が強まっている現状では形骸化(けいがいか)し、有効な「文官統制」になっていないと言われてきた。
報告書はこうした状況を踏まえて、内局と統合幕僚監部に分かれている部隊運用機能を統幕に一元化して効率化する一方、防衛相の下に政治任用の補佐官を設けるなどして「政治による統制」を強めるという。
陸海空の自衛隊が別々に武器などを購入する縦割りの偏重を改め、組織の一体性を高めることもうたわれた。組織の壁を超えて意思疎通を進め、無駄もなくなるなら結構だが、問題はこの新体制の中で本当の文民統制が機能するかどうかだ。統合されて巨大化するこの組織をどう運用し、管理していくのかという課題もある。
報告は、首相官邸の司令塔機能を強めるとして、関係省庁の幹部による委員会や補佐役を置いて首相の指導力を支えると提言した。
政治による統制といっても、では政治の側に外交や軍事の識見をふくめ自衛隊を統制できる用意と意思があるのかどうか。文民統制の根幹はここにあることを忘れてはなるまい。
民主党内で小沢代表の人気がにわかに高まったかのようである。9月21日投票の代表選挙に向けて、3選支持の大合唱が広がっている。
無投票での再選を主張する声も相次いでいる。衆院の解散・総選挙の足音が近づくなか、「いまは党が一枚岩になるべき時」というわけだ。
小沢氏の政策や政治手法に不満を漏らす議員は少なくないのに、対立候補を擁立する動きが盛り上がらない。代表選を戦えば党内に亀裂が残り、総選挙に向けての一体感が失われかねないという心配からなのだろう。
だが、そんなことで政権をめざす2大政党の一翼と言えるのか。
昨夏の参院選で大勝し、次の総選挙でいよいよ政権取りに手をかける。それが民主党の基本戦略だろう。そのためには、2年に1度の代表選を政権党としての信頼と期待を勝ち得る機会としなければならないはずだ。
代表選の意義ははっきりしている。
民主党が政権を取れば日本の政治と社会をどう変えるのか、その具体的なビジョンを指し示すことだ。そして、そのための明確な戦略を打ち出す。つまりは、政権奪取への本気度を有権者に得心させることにほかならない。
何より大切なのは政策だ。たとえば前原誠司前代表が提起している疑問にどうこたえるのか。民主党は参院選の公約で、農家への戸別所得補償などの政策を掲げた。それに必要な15.3兆円の財源を「行政のムダ排除」で生み出すと訴えた。そんなことは無理だ、と前原氏は繰り返し主張している。
こんな基本的な政策で、現代表と前代表が対立するというのは異常なことだ。これで安心して民主党に1票を投じてくれと言われたら、有権者がたじろいだとしても無理はない。
党内世論では優位に立つ小沢氏だが、国民の評価はさほどでもないとの世論調査結果もある。
朝日新聞の調査では、小沢氏の代表としての言動について「あまり評価しない」「まったく評価しない」という人があわせて61%もいた。福田首相と小沢氏のどちらが首相にふさわしいかとの質問には、福田氏の37%に対し、小沢氏は28%と水をあけられた。
日銀総裁人事で不同意を繰り返すなど、徹底した対決路線への批判もあるのだろう。そうした戦略は果たして政権交代に有利なのかどうか。
政策や政権戦略について複数の候補がオープンな議論を戦わせて初めて、有権者は納得できるし、党の活力も生まれる。その点では、ライバル自民党に一歩も二歩も後れをとっていることを自覚しなければならない。
しこりを恐れるといった内向きの論理で代表選を無風に終わらせるのは、あまりにも惜しい。我こそはと思う議員は手を挙げるべきだ。