【第6回】 2008年07月15日
オバマを正当に評価できない差別の国ニッポン
米国では順序が逆である。大統領を選出する前に、徹底的に「人物検証」をするのである。それでも判断を間違えることがある。カーター元大統領は、国民が間違って選んでしまった大統領であるという。
日本の政界では、著名な政治家の二世議員が極めて多く、その人たちが優先的に大臣の要職につく傾向があるように思う。ごく普通の人が、一代で立身出世して首相になるのは不可能に近い。これは日本人が「氏」「素性」を重んじるからであろう。安倍首相、福田首相、そして、今回失言をした町村官房長官も、著名な政治家を父に持つ二世議員である。
この点でも米国とは価値観が逆である。アメリカ人は、「貧しく名も無い家庭に生まれ、苦労に苦労を重ねて、立身出世し、一代で大統領になれる国である」ことを誇りにしている。これが「アメリカンドリーム」の本質である。生まれたときの状況と、頂点に達したときの状況の「上昇幅」が大きければ大きいほど、アメリカ人はその人物の「努力」に惜しみない賞賛を送る。
オバマを生み出す米社会に
日本変容のヒントがある
オバマ候補にアメリカ人が熱狂するのは、アメリカンドリームが生まれるかも知れないからである。ケニア人の父と、白人アメリカ人の母の間に生まれ、幼くして父を亡くし、貧しい家庭で幼年時代を過ごし、懸命に努力してコロンビア大学からハーバード大学の法科大学院に進み、卒業後には弁護士として草の根の政治運動に身を投じ、42歳でイリノイ州上院議員になり、46歳で大統領候補に選出される。何という「上昇幅」であろうか。
こうした「上昇幅」を実現させる土壌が、今の日本にあるだろうか。どこを向いても既得権益を持った人々が社会の上層部にどっしりと居座る社会になっているように見える。
人生経験の乏しい二世議員が特急切符で大臣の椅子に座る、自らの失策を認めない公務員が社会生活の隅々で権力を行使する、企業は正規雇用者だけを守り非正規雇用者を無視する。社会のいたるところに差別がある。これに絶望した若者が秋葉原で通り魔になる。あるいはネットで知り合って集団自殺する。
いま日本はダイナミックな社会への変容を求められているのではないだろうか。底辺からでも努力次第で這い上がれる社会、人を形式的に評価するのではなく、その人の持つ実質的価値で評価する社会、努力をする者が報われる社会、既得権益を突き崩せる社会。オバマを生み出した今のアメリカ社会に、日本変容のヒントが数多く存在するように思う。
第6回 | オバマを正当に評価できない差別の国ニッポン (2008年07月15日) |
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安藤茂彌
(トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO)
1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。 VentureAccessホームページ
シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。