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『萬雅堂』便り

2005-09-26 あー例のやつだ

♪坊や〜よいこだねんねしな〜♪_ 13:49

きのう、テレビから懐かしいテーマ曲と共に市原悦子さんのナレーションが流れてきた。『「まんが日本昔ばなし」がビデオになって新登場、詳しくは明日の新聞で』って、あー例のやつだ。

いつまでも人気があるのは嬉しいことだけど、このビデオについてはいろいろと複雑な思いが駆け巡るんだよね。

朝刊に立派なチラシが入ってた。今回のラインナップには私が関わったものは2本。「夢を買う」と「わらしべ長者」だ。共に上口照人さんと私で半分づつ作画を担当したんだっけ。

この番組に私は最初から参加してて、演出と作画をそれぞれ十数本やってます。

懐かしさついでに放送開始時のビデオを引っ張り出してきた。オンエアをUマチックで録画して、後年VHSにダビングしたもの。’75・1・7とある。もう30年も前だ!再生してみると…うわっ、だいぶ映像がくたびれてる!はやくDVDに移さないと。

最初は「こぶとり爺さん」

今では「カールおじさん」の生みの親としても有名な、ひこねのりおさんの作品。もうこの頃からまったく同じ世界!ほのぼのタッチがたまりません。鬼さんたちがとってもお馬鹿で可愛いこと!

もう一本が「笠地蔵」

現在、児童書の挿絵や絵本作家として活躍中の藤本四郎さんの作品。阿部幸次さんの優しい美術もあいまって、しみじみとした佳篇。町に「かせ玉」を売りに行く前半の作画が上口さんで、笠と取り替えて家に戻る後半が私の担当。なんとワンカット90秒という長回しがあります。(カット袋の厚みが20センチほどの小包みたいで、撮影シート記入するのも大変だった)

私がここであえて_ 13:49

○○さんの作品と書くのは、それぞれの昔話が完全に、担当した演出家の個人的才能による映像世界になっているからです。皆さん大変な自負と自信を持って制作に参加されてましたしね。もともとがテレビで放映されるのを目的として作られたのでなく、アジアの国々の人にもっと日本文化を知ってもらおうと企画され、出来上がった作品がたまたまテレビ局の関心を引いたということです。

実際に最初の放送はすぐ終わっています(ストックなど無いので)。あまりの好評にテレビでの本格放送が決まり、それから制作が再開されました。

通常のテレビシリーズでは自分でキャラクター作ったり、自由なイメージでの映像表現なんか出来ないから、それぞれ競作するが如くの熱気でしたね。

だから、ある日突然「テレビと同じ」をうたい文句に書店に絵本が並んだときの驚きったらなかった。

各自、自分の作品を作り上げることに夢中で、その後の商品展開なんて思いもよらなかったのです。この当時のアニメの現場での権利意識の希薄さは今となっては呆れるほどでしたね。

絵本には名前などどこにも無く、誰が作ったなどとは無縁。要はすべて買取り済みのものだからということなのでしょう。

当然、抗議、団交へと進むのですが、所詮は赤子の手びねりとなって「2次使用分配金」(対象は文芸、演出、美術のみ)なる名目の僅かな金額が渡されてチャンチャン。これがきっかけで初期の主要スタッフの多くが番組を去りました。

ですから、それから後のビデオ販売なんてのは権利を持つ者として、ごく当然の商行為なのでありましょう。

<複雑な思い>というのは、つまりはこんな経緯があるからなのです。