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【正論】政治評論家・屋山太郎 改革のための内閣改造を急げ
≪まず党幹事長と官房長官を≫
福田内閣の支持率は9カ月前、発足した当時は60、70%あったが、ひたすら下がり続けて目下は20%前後に落ちている。大底を打った観があるが、下手をすれば支持率ひと桁になったあげく竹下、森両氏の総辞職の二の舞いになりかねない。かといって20%前後では解散・総選挙に打って出るわけにもいかない。福田氏の性格では大芝居もできまい。地道に国民の納得がいく改革を進めて、怒りを収め、静かな満足感に浸らせることに徹するべきだろう。そのために福田首相に勧めたいのは早期の内閣改造だ。
自民党役員と内閣改造のポイントはまず伊吹文明党幹事長と町村信孝官房長官を更迭することにつきる。福田首相は政策は官僚が準備し、政治家はその取捨選択をすれば良いと考えていたようだ。ところが時に「官僚がいうことをきかなくて困る」とボヤくようになった。
公務員制度改革基本法の要は各省の幹部人事の「内閣人事局」への一元化である。これは「縦割り」主義の官僚内閣制を破壊し、政治家が政治を主導できるようにする最も有効な改革点だ。ところが基本法の法案化に当たって町村氏は二橋官房副長官や坂官房副長官補ら官邸官僚と一緒になって「内閣人事局」潰(つぶ)しをはかった。福田首相が実現したい意向であることを知ると今度は公務員制度改革推進本部の事務局長に御用学者を充てることを画策した。福田氏が「オレが決める」と引き取って、事務局長に立花宏氏(前経団連専務理事)と次長に松田隆利氏(前総務省事務次官)を決めた。両氏とも改革派の旗手といわれた人だ。
≪国民に真意説明の能力を≫
こうみると福田首相は最も肝心な問題で間違えてはいない。しかし、国民に真意を説明する能力に欠ける。
旧通産OBの町村氏、旧大蔵OBの伊吹氏は共に官僚内閣制が生んだ遺物のような人物だ。
伊吹氏は財務官僚さながらに、道路特定財源が問題になった時には、その中身を配慮せず、民主党のゴリ押しだけを非難した。いずれ増税が必要だというのは国民の50%以上が理解している。しかし59兆円もの道路財源を懸命に確保しようとする一方、社会保障費を2200億円(5年間で1兆1000億円)削るために後期高齢者医療保険を導入するという。居酒屋タクシー、地方整備局の底無しの無駄、北海道開発局の官製談合と官にまつわる不祥事が続出している。この中で“正論”を説いても庶民を説得することは困難だ。
伊吹氏も町村氏も官僚に踊らされているだけだ。福田氏がこういう“過去官僚”に取り囲まれながら、大失敗を免れているのは、独特の勘だ。その勘が働くのは失敗すれば民主党に政権をとられるという恐怖だろう。
公務員制度改革基本法の中身について町村氏は骨抜きにし、伊吹氏は民主党のせいにして廃案にしようとした。こういう陰謀に怒った民主党が自民党改革派との修正協議に動き出し、結局、法案は民主党案丸呑みになった。町村氏の骨抜きは糾(ただ)されたわけだ。また後期高齢者医療問題も深手にならなかったのは、首相が道路特定財源の一般財源化の大ワザで局面を転換したからだ。
≪官僚の規律糾せる布陣で≫
福田首相は(1)公益法人への支出3割削減(2)無駄ゼロ−を打ち出しているが、こういう役人への丸投げ一律方式では決して結果は出ない。これに先立って渡辺喜美行革相が独立行政法人改革を手がけたが、首相が渡辺氏の“狙い撃ち”方式を後押ししなかったため成果なしだった。たとえば雇用・能力開発機構の「私のしごと館」(京都府)などは580億円かけて建設し、毎年15億円の赤字続きだ。類似の民間の「キッザニア」(東京・豊洲)は大繁盛で大黒字。そもそも官がこういう仕事をやるべきではないのに舛添要一厚労相は官僚弁護に終始した。役人は常に横並び意識だから行革は渡辺氏のいうように一点突破でやらないと成果は出ない。首相のやり方ではなまぬるい。
現福田内閣は安倍前内閣を居抜きで引き継いで、幹事長や官房長官ら数人だけを替えたが、この肝心要のポストの人事を間違えた。支持率が大底を打ったことで福田内閣が向かうべき一つの方向がはっきりした。まず官僚内閣制を終わらせることだ。次に官僚の規律を糾してこそ、財政の規律を説くことができると知るべきだ。この手順を間違えて、財務省の増税論に乗れば、支持率は下落して野垂れ死にすることになるだろう。
福田氏が誰がどこに適任か、人脈を持っているとは思えない。肝心のポストに誰を据えれば改革ができるかだけを考えて人事をやるべきだ。(ややま たろう)