リコール裁判の争点
News & letters 106/
いよいよ、東洋町町議会議員田島毅三夫にかかるリコール裁判が7月14日午後3時から始まった。
この事件は今年3月18日から始まった町議リコール請求という県下では戦後一つか二つしかない珍しい事件で、有権者の三分の一を優に超える署名が集まりながら、リコール請求代表者の中に町農業委員という特別職非常勤公務員が混ぜっていたというところから、町選管が署名簿全てを無効としたものである。
この裁判の争点は町選管が根拠としたのが地方自治法などの法令ではなくて、50年前の最高裁判例というところであり、それ以外何の説明もないという異例のものである。
最高裁判例を金科玉条としている。
*第1の争点は農業委員が請求代表者に入ってなされた署名収集が「法令の定める成規の手続き」に違反している」という判断である。
しかし、肝心の「法令の定め」とは何ぞや、と尋ねられたら、違反するというその「成規の定め」なるものが何か、幾多くの規定のジャングルを渉猟しても地方自治法にもどの法令にもそれが存在しない、というところに大きな問題が出てきた。
最高裁判例が摘示するいくつかの法令も農業委員など非常勤の特別職公務員が直接請求の代表にはなれないという、そういう規定は何も書いていないし、どんなに強意的に解釈しても最高裁判例などが言うように請求段階も住民投票段階でも直接請求では公職選挙法が全般的に適用されるとは解釈できないものであった。
むしろ、地方自治法の直接請求の章では、リコール請求段階と住民投票段階とでは法令の適用が明確に相違していること、請求段階では条例制定請求の手続きが準用される規定になっており、公選法は直接請求の投票段階で準用されるということが明記されていて、最高裁判例などは法令の構造自体を理解しなかったのではないかという疑問が浮かび上がったのである。
だから、農業委員は請求代表者になれないという「成規の手続き」に違反といってもその成規の定めとやらそのものが存在しない、ということになったのである。町の選管も住民に説明を求められて説明できなくなり、後で調べます、といったまま未だに返答がない。町の選管が雇った弁護士の答弁書を見ても、最高裁がこう言っている、という文言のみでいかなる法令に違反するのか答えられないのである。
この間、高知新聞が、地方自治法によれば農業委員は議員解職の直接請求代表者になれない、と断言口調で書いた記事があったが、住民等にそれは地方自治法や施行令の何処に書いてあるのですか質問されると、専門家ではないから分からないという始末であった。
法令というのは社会の規範であるから専門家でないと分からないという法令はそもそも意味がないのだ。逆に、地自法令をまともに読めば、農業委員や消防団員など非常勤の特別職公務員には議員解職請求の署名集めなどは禁止されていない、すなわち許されるということはすぐに読み取れるだろう。
法令に違反といってその法令とは何ぞやと問われて、わんかんないでは済むまい。
*最高裁判例を金科玉条にする態度も問題があろう。学者先生は元より、普通の弁護士に尋ねてみよ。最高裁といわず、下級審の裁判といわず、日本の裁判が如何にでたらめな裁判が多いか、
陪審員制の導入の一つの大きな動機には、専門の裁判官の狭量な非常識が横行している現実に対して、ブレーキをかけるという重要な問題がある。
日本の裁判に常識の支配が必要だというところから、陪審制の意義が出てくる。
裁判所の判例ではなく、まず第1は法令の規定が先でありそれに何と書いてあるかが最重要だ。そして次ぎにその法令の解釈がどうかというのが第2であろう。第2の段階で裁判官の解釈や事件への適用の可否が問われるのである。法令やその規定抜きの裁判官のただの判断や解釈だけで人や事件が裁かれたら大変なことになる。
最高裁の判例もそうであるが、選管委員長やその答弁書でも地自法第74条の3項第1号のいう「法令の定める成規の手続き」違反というが、それは一体何の法令の第何条の違反なのか、指摘することが出来ていないのである。
法令(成規の手続き)に違反しているから法令違反だという同義反復では人は納得しないだろう。
地方自治法の法律でも内閣が命令で決めたその施行令や規則でも農業委員が議員解職請求活動をしてはいけない、という規定は何処にもない。
署名収集が終わり署名簿を提出する請求段階では、基本的には誰でも許されている。
署名簿の提出を経過してその請求について可否を問う住民投票の段階では公選法が適用される、その場合には公務員(大方の特別職の非常勤の職員含む)の活動が制限され、直接請求の代表者として政治活動が出来ないという制限が課せられるというのが地方自治法の第五章各条項であり、それについての施行令なのである。今回の東洋町の場合は農業委員が関わったのは請求の署名簿を提出する寸前までであって、投票段階の公職選挙法が適用される以前のことであった。地自法の法令には何にも抵触する事実はなかったのである。
*そして、もう一つ重大な問題は、仮に、地方自治法の施行令で農業委員は直接請求代表者にはなれないと規定されていた場合はどうかである。
(念のため繰り返すが、そのようなことは施行令には規定されていないのであるが、数少ない判例ではそのように記述されていると信じているらしい。)
この場合法律で許されている国民の権利を内閣の命令に過ぎない施行令で制限することが出来るのか、という問題である。
法律は全て国会で審議され議決されねばならないというのが憲法41条の定めである。
国会で定められた国民の権利を、内閣の命令で取り消すことが出来るのか。そんなことが許されるとしたら、戦前の勅令のようなもので権力を握ったものが勝ちであり、何でもできる、議会の権能は無となり行政権力の専横がまかり通ると言うことになるであろう。
地方自治法の法律での規定では、直接請求は有権者であればできるとなっていて何も農業委員について禁じられていないのに、政令でもって、農業委員や消防団員などまで直接請求の権限を除外するというのは明らかに憲法違反であろう。
実際の施行令ではそのような規定は存在していないが、仮にそのような規定(政令)が存在したとしてもその規定そのものが憲法違反であり、無効な規定となるであろう。
東洋町の今回の裁判は1町会議員を議会から追放するかどうかというレベルを遙かに超えた。
特別職非常勤とは限らず公務員全般の参政権に関わる重大な裁判であり、時の内閣の恣意によって法律がゆがめられ国民の権利が奪われていいのかどうか、これを問う大裁判に発展している。
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