北京で開かれた北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議は、北朝鮮の核計画申告に対する検証方法の大枠で合意し、見返りとなる経済・エネルギー支援の実施計画にも道筋をつけた。
約九カ月間も中断していた協議が再始動し、暗礁に乗り上げていた北朝鮮の非核化に向けた流れを進めたのは評価できよう。だが、検証の具体的な時期や手順などは先送りされた。大きな前進とは言い難く、半歩前進にとどまった感じだ。
現在の交渉テーマは、核施設稼働停止などの初期段階に続く第二段階の措置である。六カ国協議は二〇〇七年十月、第二段階の措置として北朝鮮が同年末までに寧辺の三核施設の無能力化を完了させ「すべての核計画の完全かつ正確な申告」を行うことで合意したが、履行されなかった。
今年六月になって北朝鮮は核計画の申告書をようやく提出した。それを受けた今回の協議では検証方法について、施設への立ち入り、書類の検討、技術者への面談、という三原則が確認された。検証には六カ国の専門家のほか、国際原子力機関(IAEA)も必要に応じて加わるとした。
さらに寧辺の核施設の無能力化と、見返りとして重油など経済・エネルギー支援を十月末までに完了することでも一致した。順調にいけば第二段階の措置はこの時点で終わり、核放棄に向けた第三段階の議論に移るが、過去の経緯などからスムーズに事が運ぶとは思えない。
最大の問題は、核申告の内容が「完全かつ正確」かどうかだ。焦点だった検証のスケジュールや立ち入り施設の対象など具体的な詰めはできず、引き続き非核化作業部会で細部の合意を目指すことになった。
大切なのは、どんな施設でも制限なくチェックできる体制づくりだろう。抜け道のない厳格な具体策が求められる。
特に米国には冷静な対応が望まれる。核申告に伴い、米国は北朝鮮のテロ支援国家指定解除を決定し、解除が発効する八月十一日をにらんだ交渉をするとみられる。任期が迫り、外交成果を挙げたいブッシュ政権の安易な妥協は禍根を残すだけだ。
日本にとっては、核と並んで拉致問題も重要なテーマである。この問題で進展がない限り、経済・エネルギー支援への参加留保の立場を表明しているが、米国などとの温度差の開きが感じられる。拉致問題の置き去り懸念が強まる中で、関係各国の理解と協力を得る粘り強い外交力が問われる。
日本サッカー協会の新しい会長に常務理事の犬飼基昭氏が就任した。副会長、専務理事を飛び越えての登用は異例である。 犬飼氏は現役時代は日本リーグ(当時)の三菱重工でプレーしており、引退してから三菱自動車に勤務した。欧州法人の社長などを務め、二〇〇二年からJリーグ一部(J1)浦和の社長に就き、再びサッカー界に戻ってきた。原動力になったのが、三菱自動車時代に触れた欧州のサッカーだったという。
浦和では、低迷するクラブを強豪に育て上げ、さいたま市に地域密着の総合スポーツクラブ・レッズランドを創設した。その経営手腕が評価されての抜てき人事だ。
三期六年にわたって会長を務めた川淵三郎氏の後を受けるのは大変に違いない。川淵氏はプロリーグ発足、ワールドカップ(W杯)初出場と自国開催など、日本サッカー界の改革と躍進を担ってきた。スポンサーから協会に豊富に資金が入るようになり、女子やフットサル、エリート養成システムなどの事業を広げてきた。サッカー人口拡大に努めた功績は大きい。
しかし、このところ日本代表の人気に陰りがみられ、長期政権への批判も出ていた。犬飼新会長は会見で「サッカー界を取り巻く環境は日々どんどん変化している。昨日正しかったことが今日は正しくないこともある」と意欲を述べた。新しい協会の理事に、元ラグビー日本代表監督の平尾誠二氏と女子テニスのクルム伊達公子選手を招いた。競技の垣根を越えた大胆な人事といえよう。サッカー界に新風が吹き込まれれば、一段の活力が生まれるだろう。
犬飼新会長への期待は大きい。Jクラブを飛躍させた指導力を発揮し、サッカー界に新たな展望を切り開いてほしい。
(2008年7月15日掲載)